あの人の印象

 

 

  

 日中と寒暖の差が激しい、砂漠の夜。

 細かい砂の粒子で軋む髪をぼんやり気にしつつ、キラは夜風に吹かれていた。

 宇宙用の戦艦のデッキには、彼の他に誰もいない。

 

「……しずかなー……この夜に……」

 

 頼りない声で、一度だけ聞いたことのある歌をキラは口ずさんでみた。

 覚えていた歌詞は朧げであったが、彼女が歌っていたメロディは優しい響きを持っている。

 記憶の底で桜色の髪が舞った。

 

 

 “でも貴方が優しいのは、貴方だからでしょう?”

 

 

 全てを包み込むような声で紡がれた、少女の言葉が耳の奥で再生される。

 知らずキラは、小さな笑みを浮かべた。

 

 アスランの婚約者なのだと笑った、春風のような暖かさを持った人。

 ありのままの自分を受け入れてくれた彼女との時間は、思いがけずキラに癒しを与えてくれた。

 

 無重力でふわふわと揺れる、ウェーブのかかった髪と同じ色のロボットを連れたあの子は。

 今日も宇宙(そら)で、平和の祈りを歌っているのだろうか。 

 

 

 

 

 星々が近付いては、窓の外を遠ざかっていく。

 

「こちらでも、一人なのは変わりませんのね……」

 

 ヴェサリウスの船室で物足りなさそうに呟き、ラクスは大事な友達を手招きする。

 

「ピンクちゃん」

「ハロ!」

 

 掌に戻って来たハロにくすりと笑みを零すと、心を占める人の名前をひっそりと呼んでみた。

 

 

「キラ様……」

 

 

 ポロロ、と微かな電子音を立て、ハロの目が彼の名に反応したかのように光った。

 彼との出逢いが脳裏に蘇る。

 

 

 乱暴ではないけれど、力の篭った腕で掴まれた瞬間、身体に電流が流れたように感じた。

 初めて躊躇なく、自分の手を掴んでくれた人。

 歌姫のラクス・クラインではなく、一人の少女として接してくれた方。

 

 

 今度会ったら、また「キラ」と呼んでみようか。

 アスランの元へ返してくれた時は、それどころでは無かったけれど。

 もしまたちゃんと呼んでみたら、彼はどんな顔をするのだろう?

 

 

 きっと藤色の瞳を瞬かせて、吃驚した顔で私を見つめるのだ。

 

 

「アスランからも、彼のお話が聞きたいですわ」

 

 

 相槌を打つハロを抱え、ふふっと花の様にラクスは微笑んだ。

 

 

 

 

END

 

 

 

 

  

時間軸はバラバラです。キラの方は砂漠でカガリと出会った頃、ラクスはヴェサリウスに保護された直後です。

本編ではあまり語られてませんが、時々こうしてお互いのことを思い出していたんじゃないかなと思い書きました。

 

この頃の話だと、プラントでの再会時の様子もあって書いているとどうしてもラクス→キラの傾向が強くなります。

多分ね、「穏やかな日に」でアスランが彼女にキスした場所が頬じゃなかったら、ラクスはそのままアスランと歩んでいたと思うんですよ(笑)

しかし彼は「ちょっと回って(by監督)」頬にキスしちゃったんですよ(笑)照れちゃって。

そういう一瞬一瞬が、キラに惹かれていく過程になったのではないかと思います。

キラの方は、多分戦争集結後の空白の二年間の間に何かがあったんだと思います。その頃の話も妄想しているので、出来たらUPしたいです。

短いですがご拝読下さり、有り難うございました!

 

2012.7.13