似ている人

 

 

 

 エルウィンが精霊の力を借りて飛ばした矢文が、空に消えてからずいぶん経つ。

 

「………お前の仲間たちは、来るだろうか」

 

 ブーツの澄んだ靴音を響かせて、ブランネージュはソウマが腰かけていた戦車へと寄った。

 神秘的な赤い瞳は、ソウマのものと同じように空の彼方を見ている。

 

「きっと来るさ。みんな意地張ってても、根っこの部分は変わってないからな」

「だがこの間の様子では、双方自分たちが正しいと思っている。……ああいうのは厄介だ。どちらの主張も筋が通っている以上、議論しても堂々巡りで決裂しかねんぞ」

「……かもな。でもこの際、腹を割って話すのが大事だと思うんだ」

 

 もっともな彼女の意見に苦笑を浮かべつつ、ソウマは両手を頭の後ろに持っていきながら続ける。

 

「あいつらは国とか戦争とかのしがらみに縛られて、あいつら自身の、本来の願いが見えなくなってる。そういう枷を取っ払う役目は、どこにも属してない俺しかいないだろ?」

 

 ブランネージュはしばらく、通り名の通り氷を思わせる視線をソウマに注いだ。

 甘いと言われるだろうか、なんて思いながら、ソウマは彼女の反応を待った。

 

 

「……貴方をゼロが選んだの、わかる気がするわ」

 

 

 すると、雪解けのあとの花のように、ブランネージュは微かだが口元を綻ばせた。口調が変わった彼女に、ソウマは目が点になる。

 

「……そりゃどういう意味だ?」

「似てるのよ。貴方とゼロ……いえ、シオンって」

 

 意外そうに、ソウマはブランネージュを見返す。短い付き合いだが、彼女がこのような話をするのは珍しいことに思えたのだ。

 

 

「少し考えが足りない所とか、無鉄砲な所とか」

「……それ褒めてんのか?」

「やさしい、所とか」

 

 

 穏やかな表情に、ソウマは言おうとしていた文句を飲み込んだ。

 人知れずクレハに心を寄せていたソウマにはわかる。

 

 彼女の表情___それは、もう叶うことのない、愛しい者への想いだ。

 

 

「彼も、望まぬ運命に走った人を止めようと、救おうとしてくれた。私が諦めようとしたその瞬間も、隣で励まし続けてくれた」

「……そっか。いい奴だったんだな」

 

 

 頷きはしなかった。だがその沈黙は何よりの肯定の証だった。

 

 

「お前たちを見てるとつくづく思うよ。シオンは本当に慕われてたんだなって」

 

 

 時折ゼロの顔によぎる、人としての弱さを思い出しながらソウマは言った。だから尚のこと、彼らにとって同じ場所に立てない今は歯痒いものだろう。

 そこに相容れない道を選んだ自分たちを重ね、少し遠い眼になりソウマは問うた。

 

 

「……昔に戻りたいとか、思うことあるのか?」

「……そうね……」

 

 

 短かった銀糸の髪を、ブランネージュは無意識に押さえた。 

 

 

「あの頃が一番幸せだったのかもしれない」

 

 

 ブランネージュの脳裏に、平穏からは遠かったが、仲間たちとの騒がしく心地良い日々が浮かんだ。

 同時に今はもういない、少年の姿も。

 

 

「……でも過去は戻せないし、これも彼が運命を受け入れた一つの結果」

 

 

 彼女の心象世界で、少年の笑顔は白と黒の翼に変わる。

 

 

「なら私たちは、別の道でそれぞれの役目を果たすべきなのよ」

 

 

 ビジョンの変化をいささか苦い気持ちで見ていた彼女に、ソウマの声がかかった。

 

「信頼してるんだな」

「信頼……? ……いえ」

 

 ブランネージュは視線を逸らした。

 

 

「……信頼してたら、疑うなんてことしなかったわ」

「けど今は違うだろう?」

 

 

 ソウマは戦車の車体に座り直しながら言った。

 

 

「あいつの立場を理解して、受け入れて。それで今は動いてるんだろう? だったらそれは、“信頼してる”ってことになるんじゃねぇか?」

 

 

 何でもないことのようにソウマは話したが、彼の言葉をブランネージュは目を見張って聞いていた。

 

 

「それに同じ願いなら、また道が交わるさ。未来なんて誰にもわかんねーんだから。あいつが人間に戻れる日だって、いつか来るかもしれないぜ?」

 

 

 最後はいつもの自分らしくおどけて話したソウマを、ブランネージュは驚いた顔のまま見ていたが、やがてまたゆるりと口の端を上げた。

 

 

「……やっぱり似てるわ。貴方とシオン」

「へ?」

 

 

 間抜けな声を上げた彼に、ブランネージュは意味ありげな微笑を向けた。

 

 

 

END

 

 

 

 

ソウマによるキリヤとトライハルト達の和解作戦前の話です。

彼女の言う「望まぬ運命に走った人」とは、弟のガラハッドのこと。

また彼女の「疑い」とは、ゼロがリュウナとラザラスを殺したことに対するもの。

ほんの少しでも、彼に怒りや憤りを覚えたことに対する自分への嫌悪のつもりです。

ヴァイスリッターにとって、ソウマとの出会いはゼロとの関係を見つめ直す良い切っ掛けになったのではと思っています。

それは多分、ソウマがシオンと面識がなかったこともあるのでしょう。

 

ブランネージュは心境によって口調が変わるのが楽しいです。

個人的にドラマCDで、シオンに対してデレを出す林原さんの声が好きです。川澄さんのも良いのですが、変わられたのは残念だった…。

 

ブレイドでカイネルなどのティアーズの面々が○○した設定になっており、おまけにもはや只のギャルゲー&歌ゲーと化してしまいましたが、今でもキャラクタ−は好きですし、本編で語られてない話を妄想するのは楽しいので、今後もぼちぼち書いていきます。

ご拝読下さり、有り難うございました!

 

2012.4.14