紡がれし運命という名の

 

 

 

「キリヤ、ちょっといい?」

 

 幼馴染のものとは違う声に、キリヤは振り向く。

 

「えっと……君はたしか、ヴァイスリッターの……」

「エルウィンよ。よろしくね」

 

 緑を基調とした服をまとう少女は、にこりと人懐こそうな笑顔を向けた。

 頭に羽飾りを付けた彼女は、可愛らしい顔立ちだが凄腕の弓使いだと聞く。

 夢の中で見た人物やゼクティと同じ耳を見て、ああ、この子もエルフなのかとキリヤは思い至る。

 

「ゼロから聞いたんだけどさ、アンタ、あいつの心剣抜いたんですって?」

「ああ、まあ」

「心剣の形って、人によって違うんでしょ。アイツの心剣ってどんなのなの?」

 

 『エルフにしては好奇心旺盛』とゼロが評していた通り、彼女は興味に満ちた瞳を隠しもせずキリヤの顔を覗き込んだ。

 勢いに若干気圧されつつ、キリヤはゼロの胸から抜いた剣を思い浮かべる。

 

「ええと……刀身は透明で見えない。柄には白い羽と黒い羽が絡み合っていて……そう、ゼロの背中にあるものと似ているな」

 

 キリヤは答えるが、エルウィンからは返事が返ってこない。不思議に思って見ると、彼女は驚愕に目を見開き顔を強ばらせていた。

 

「……どうしたんだ?」

「……リュウナの杖と同じだわ……」

「リュウナ?」

「私たちの昔の仲間。……ゼロが殺した、神竜の巫女よ」

 

 

 『神竜の巫女殺し』。

 ゼロに着せられていた名を想起し、キリヤは小さく息を飲む。

 エルウィンは力を抜くようにいったん瞳を閉じ、それからきゅっと口元を引き結ぶ。

 

 

「……仕組まれていたのかもね。双竜の指輪も、シオンがシルディアに流れ着いたことも」

「……」

「……シオンがゼロになることも」

 

 

 いつも明るい彼女らしからぬ真剣な声音に、キリヤは密かにどきりとさせられる。

 

 

「……以前ゼロが言っていた。この世界は、もっと大きな力を持つ何者かによって支配されているんだと」

「そう。そんな世界で、相反する二つの力を司るシオンの存在は、この世界にとってのイレギュラー。神々の竿秤り」

 

 

 彼女の語る言葉は、ゼロのと同様に常識の範疇を越えていて、キリヤにはにわかに理解しにくい。

 ただ、彼らは世界に関わるとんでもない事実を知っていて、そして重責を負っていることだけはわかった。

 

 

「……クピードは知っていたのかしら……」

 

 

 物思いにふける彼女に、キリヤはそれ以上声をかけることが出来なかった。

 エルウィンは従兄弟から譲り受けた弓を、神弓と呼ばれる伝説の武器を、不安を紛らすように、そっとかき抱いた。

 

 

 

 

END

 

 

 

 

ありそうであまりない二人です。時間軸は光風館にヴァイスリッターが出入りし始めて少し経った頃。

アニメや漫画でも言及されていましたが、エルウィンは神弓を持つ人物ということで、何かあった場合、シオンを殺さなければいけない使命を負っているんですよね。

私はティアーズの中で特にシオンとエルウィンのCPが好きなので、シオンがゼロのままだと結ばれることの無い二人が切ないです。特に小説版二巻の最後の台詞「私は彼に人でいてほしかったのに!」は、切なすぎて辛いです。

…それなのに、今のエルウィンさんはどこかお間抜け天然キャラになっていたり、アークで行商人になってたりとシリアスが置いてけぼりになっていて、二重の意味で泣けます。

 

タイトルはティアーズのサントラの曲から。ティアーズの曲はエヴァの鷺巣さんが作られていることもあって、王道ヒロイックファンタジーの空気が表現されていてとても素敵です。

 

何はともあれ、シャイニングは好きなキャラが沢山いるので、今後も思い付き次第話を書いて参ります。

短い話ですが、最後までご拝読下さり有り難うございました!

 

2013.11.26