最後の祝福 最終話

 

 

 

 

 それから数ヶ月が経った。

 通りの向こうからゴンが手を振ってくるのに軽く手を上げ、挨拶を返す。

 

「よぉ、ゴン」

「レオリオ、携帯直してもらえた?」

「おぅ。ほら元通りだ。お前これ風呂ん中でも使ったのか? メモリのすぐ傍まで水滴が入ってたってよ。一応防水機能はついてるけど、水中専用って訳じゃねえんだぜ?」

「あはは……でも良かったよ。データが消えなくて。あ、修理代はいくら?」

「いいぜ、大した金額じゃねぇし、かなりまけてもらったからな」

「また値切ったんだ……」

「当然よ」

 

 あははと呆れつつ、ゴンは甲虫型の携帯をリュックに仕舞った。

 

「これから行くのか?」

「うん、そろそろ始めないといけないしね」

「親父さん探しか」

「うん!」

 

 キルアは一足先にハンター試験を受けに街を後にしていた。そしてゴンは彼との合流を目指しつつ、自分の父親探しという本来の目的に向かって再び旅立つことにしたのだ。

 

「じゃあな。この数ヶ月楽しかったぜ。何かあったらいつでも呼べよ!」

「レオリオも勉強頑張ってね! じゃあね!」

「ああ! またな!」

 

 元気良く駆けていく小さな背を見送って、レオリオは最後のコーヒーを飲み終える。勘定を置いて鞄を持ち、席を立つ。

 

 

 ……この数ヶ月、レオリオの中で特段、何かが変わった訳ではない。

 彼と会う前と同じように、毎日を過ごしている。

 

 

 ……ただ一つ。変わった事と言えば。

 

 

 レオリオは医学書の詰まった鞄を持ち直す。

 

 

 ……また夢を見ることにした。

 

 

 いつ叶うかもわからない。そんな抱くだけの思いなら、届く筈が無い。

 叶わないなら、叶えてみせる。届かないなら、引き寄せてみせる。

 そう、思えるようになった。

 夢のような奇跡に、確かに出逢ったのだから。

 

 

 世の中の流れに憤りながらも、出来る事をして進んでいくことが、自分の弔いの形なのかもしれない。

 沢山のものを残してくれた、道半ばで去っていった友たちへの。

 

「……あ」

 

 見慣れた姿を見た気がして、レオリオは人混みの中に目を凝らす。人の流れに逆らって進み、目的の人物を呼び止める。

 

「おい、ちょっと……!」

 

 レオリオより、少し背の低い影が振り返る。

 かつて腕の中にあったのと同じ、金色の髪が、揺れた。

 

 

 

 ……その道の途中で、また、もしかしたら、なんて

 

 

 

 

 ——そんな奇跡を、信じてる。

 

 

 

 

 

 

END