黄昏に待ち人は

 

 

 

 路地裏に人間の肉体を殴打する音が響く。

 黒い服装をした男が複数人、地面に倒れ込んだ。伸びて動かない部下たちの中心で、守られていた壮年の男が腰を抜かして座り込んでいる。金光りする時計と艶の乗った革靴、見るからに羽振りの良さそうな格好だ。しかし高級そうな品で固めた男の服はすっかり汚れている。

 硬質な音を立てて、一人の人物が近付いた。髪の色は蜂蜜のような、透き通った金色。少年のような幼さが抜けきらない面立ちは、血と同じ色の瞳で男をまっすぐ射抜いていた。

 苛烈な視線に、男の歯の隙間からヒィと怯えた声が漏れる。

 

「これで理解していただけたか。我々が本気だと」

 

 男を見下ろしていた青年はしゃがみ込み、スーツの襟首を掴んでぐいと体を引き上げる。抵抗するように男の手が動くが、青年はその細い体躯にどれほどの力があるのか、片腕で男の身体を持ち上げてしまう。

 男の爪先が地上から離れる。首元を持ち上げたまま、青年は手に力を込める。指が喉に食い込む。窒息の恐怖に男は足をばたつかせた。

 苦しさに呻いていた男だったが、唾気を飛ばしながら渾身の力で叫ぶ。

 

「この悪魔め!!!」

 

 しかし青年は動揺もせず、氷のように冷徹な表情のまま男を見据えている。

 腕の力は緩まない。

 死ぬ。恐怖に再度、男は身を強張らせる。

 

「その言葉はもう、聞き飽きた」

 

 程なくして、青年の瞳と同じ、赤い液体が路地に滴った。

 

 

 

 

 

「トリックオアトリート! お菓子をくれなきゃイタズラするぞ!」

 

 黄昏が暗闇を連れて、世界に降り立つ頃。黒いフードを被り、頭にツノを生やした小さな子供がクラピカに向かって手を突き出した。

 背丈はクラピカの腰ぐらい。暗紫色のマントも付けた小さな悪魔は、目を期待にキラキラさせながらクラピカを見上げている。

 腕にぶら下がっているのは、たくさんのお菓子が詰まったバスケット。

 出会い頭に話しかけられ、しばし面食らっていたクラピカだが、今日という日のイベントの趣旨を思い出して小さく微笑んだ。

 

「……あいにく、今はこれしか持っていなくてな」

 

 ポケットに入れていた飴玉を取り出す。休憩中に糖分を取るようにと、同僚に無理やり渡された品の残りだ。

 

「これで我慢してくれるか?」

「うん、いいよ!」

 

 あっさりと頷いた子供のもみじのような手のひらに、クラピカはそれを落とす。また一つ増えたカラフルな包み紙の菓子に、えへへと子供は頬を緩める。

 正直な反応にまた、クラピカも口元を緩めた。

 

「それとお菓子をもらうなら、あちらの通りがいい。ここはあまり人が通らないからな」

 

 腕に下げたバスケットに飴を放り込んでいる子供に、クラピカは自分たちのいる裏路地ではなく、街の中央の方を指で示した。

 子供は小さな頭をそちらに向ける。確かにここよりは賑やかで、大人たちもたくさんいるようだ。

 さりげなく安全な方向へと誘導するクラピカに、幼子は素直に頷いた。

 

「そっか、わかった!」

「気をつけて」

「うん!」

 

 数歩かけ出してから、マントを翻して子供は振り返る。

 

「ありがとう、おねえちゃん!」

「…………」

 

 去り際の言葉に苦笑しつつ、カゴを揺らして表通りに向かって駆けていく背中をクラピカは見送った。

 小さくなる影が人混みに紛れるのを見届けた後、誰に聞かせるでもなく呟いた。

 

「ハロウィン、か」

 

 微笑ましいものを見つめていた笑みは、いつしか別の感情を秘めたものへと変わっていく。

 切ないような思いに浸りそうになったところで、聞き慣れた声が響いた。

 

「そこのおねえさん、トリックオアトリート!」

 

 狼男の仮装をした、長身のサングラスの男がやってきた。

 クラピカの目の前に立った彼は、笑いながらふさふさの毛が生えた獣の手を差し出す。

 対して数秒間固まっていたクラピカだったが、すぐに冷めたまなざしになりその人物を凝視する。

 

「……これはまた、ずいぶんと図体のでかい子供がいたものだな」

「いてて、イッテェ! やめろ引っ張んな! このカチューシャ食い込んでて結構イテェんだよ!!」

 

 下から仮装した耳を思い切り引っ張るクラピカに、レオリオは抗議の声を上げる。

 パッと手が離された瞬間にバランスを崩し、よろけた彼にクラピカは呆れた眼を向けた。

 二人はハンター協会の慈善事業の一つということで、スワルダニシティーのハロウィンイベントに駆り出されていた。

 クラピカは警護担当、レオリオも当初は警護担当だったが、面白がった同僚たちの策略により仮装をさせられ、いつの間にかイベントの案内係になっていたらしい。

 

「子供と同じことをして恥ずかしくないのか」

「冗談の通じねぇやつだな、こっちは体張ってんだから少しは労えよ」

 

 レオリオは痛む頭をさすりながら言う。

 

「その割に、ずいぶん楽しんでいるようだが」

「そりゃあやるからには、楽しまねぇと損だろ」

 

 毎度のごとく自分には容赦のないクラピカに軽口を叩いていたものの、レオリオは急に真剣な顔つきに変わった。

 

「…………どうした、お前。怪我してんのか」

 

 彼の言葉に、クラピカはわずかに目を見開く。レオリオはまっすぐに己を見ていた。

 気取られたことに驚くも、クラピカはやんわりと否定した。

 

「……いや、私の血ではないよ」

 

 一瞬訝しげな表情になったレオリオは、クラピカの頭から足先まで瞬時に視線を走らせる。それから再びクラピカの顔を見つめて、瞳に納得の色を浮かべた。

 

「…………そうか」

「ああ」

 

 返答の意味を、正しく理解したのだろう。短く返したのち、レオリオは安心したように嘆息する。けれどその顔はどこか気まずそうにも見えた。

 そう感じるのは、自分の心に後ろ暗い部分があるためだろう。クラピカは思う。

 

 

 先ほど答えた通り、血の匂いはクラピカのものではなかった。おそらく先刻までの仕事で付いたものだろう。十二支んとは違う、マフィアの仕事だ。

 ……殺してはいない。だが組にタチの悪い喧嘩を吹っかけてきた人間に対し、部下どもども相応に痛みつけた。黒いスーツで目立たないとはいえ、その返り血はたしかにクラピカの衣類に染み付いていたようだ。

 職業柄(正確には医学生だが)、以前より血の匂いに敏感になったのだろう。レオリオの成長を感じると共に、クラピカは苦い気持ちもどこかで覚える。

 かつては同じ道を歩いていたはずなのに、こんなにも変わってしまった。

 

『この悪魔め!!!』

 

 数刻前に聞いた罵りの言葉が、クラピカの耳に再生される。

 振り払うように顔を上げた視界に、カボチャの形をしたオーナメントが映った。

 ハロウィン。もともとは海の向こうの大陸の、ある民族の祭りに由来しているというイベント。今では一年に一度、子供たちだけがお菓子をもらえる日として馴染み深い。

 とある地域では、ハロウィンでは異界の門が開くために悪さをする精霊や魔女が出てくるらしい。そうして仮装する人間たちに紛れているのだと。

 

「……お化け役は、君より私の方が似合っていたかもな」

「へ?」

 

 独り言に近い言葉を聞き逃したレオリオだったが、クラピカはスタスタと歩き出してしまう。

 

「お、おい」

「向こうの方を見てくる」

 

 そのあとも何度か彼の呼びかける声がしていたが、クラピカは振り向くことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 街のパトロールに繰り出して数時間。

 喧騒から遠くなり、明かりのない路地裏に靴音がやけに大きく響いていた。

 日が落ちてきて長くなった影に、クラピカは視線を落とす。スーツの襟足に角度がついて、パレードの中で見かけたヴァンパイアのようなシルエットになっている。

 自分も似たようなものだな、と自嘲する。人の形をした化け物たちと同じ、闇に紛れる黒い服をまとい、暗い仕事ばかりを行っている。

 血の匂いが残る袖口を押さえ、無意識に拳を握り込む。手元で常に具現化している鎖が軋んだ。

 スーツの下の背中に仕込んでいるのは、いつからか隠し持つようになった拳銃の感触。

 もう、あの刀はない。

 同胞たちの緋の眼を取り戻すという目的のため、仲間たちに顔向けできないような行いばかりを繰り返している。何度も、何度も。

 後悔はない。自ら覚悟して選んだ道だ。しかしどうしようもない自己嫌悪の感情は、ふいにこうして顔を出してはクラピカを苛む。矛盾を割り切れない己への怒りと共に。

 日向を歩いていたのは、いつだったか。

 

(我ながら、女々しいことを)

 

 沈みがちな思考を断ち切るように、クラピカは一度目を閉じる。

 深く呼吸して、長い息を吐く。目を開けると、夕暮れのオレンジ色に染まった、柔らかく静かな空間がそこにあった。

 だが、憂いを帯びた表情は消えない。

 あてもなく数歩踏み出したが、何となしにまた足を止めてしまう。まるで迷い子のような面持ちになっている自分をクラピカは自覚していた。

 ふと視界の端に何かが見えた気がして、クラピカは思考を切り替え、前方へと視線を向ける。路地の隅で、何者かがこそこそと動いている。

 相手の様子をしばらく観察していたクラピカだったが、気付かれぬように気配を絶で消しながら背後まで近づく。

 

「……ここで何をしている?」

 

 はっと驚いた顔で振り向いたのは、先刻お菓子をねだられた子供よりも少し大人びた少年だ。柔らかそうな栗色の髪が、おずおずとクラピカを見上げている。

 少年と対峙したクラピカは、無言のまま彼をしばし見つめる。

 どことなく、誰かと似ている。

 立ち尽くす彼からは、敵意はまったく感じられなかった。

 考えてみれば念の気配もなかったのに、つい必要以上に警戒してしまった。だいぶ神経が昂っているようだ。

 子供相手にすごんでしまった自分を戒めるように、クラピカは殊更穏やかに聞き直した。

 

「……どうした? 迷子にでもなったのか」

「………うん」

 

 しばらくの沈黙の後、彼はようやくうなずいた。少年を安心させるように、クラピカは使っていなかった表情筋を動かし、微笑を意識した。

 

「そうか。……子供が一人で歩くのは危ない。向こうの通りまで行こう、ほら」

 

 手の鎖を消し、クラピカは手のひらを差し出す。クラピカの差し出した手に、少年が自らのものを重ねる。

 子供特有の、肉付きの良いやわい掌。懐かしいような感触だ。

 少年の手は、生まれつき元々冷たいクラピカよりも更に冷たかった。だが握っているうちにじんわりと熱が伝わり、段々とあたたかくなっていくのがわかった。

 自分よりずっと小さな彼の手を引き、クラピカは大通りの方へと歩き出す。

 不揃いの足音が、コンクリートの路地裏に反響する。

 歩き始めて数分、少年はしばらくじっとクラピカを見上げていたが、ふいに思いがけないことを尋ねる。 

 

「……怪我しているの?」

 

 少年の問いに、クラピカは少なからず驚いた。

 理由を問いたげな沈黙に「なんとなく」と少年は答える。曰く、鼻が利くのだと。

 

「……私は平気だよ」

「そう」

 

 数時間前と同じように、クラピカは答える。少年は相槌を打つも問いを重ねる。

 

「でも、痛かった?」

「……どうしてそう思うんだ?」

「……なんだか、辛そうな顔をしているから」

 

 自分の方が痛そうな表情で、少年は言う。アーモンド色の瞳が悲しげに歪む様子に胸がちくりと痛んで、クラピカは「そんなことはないよ」と言い募る。

 

「……」

 

 少年は何か言いたげな顔でクラピカを見上げていたが、やがて目を逸らした。そして小さく聞こえないような声音で「……うそつき」と呟いた。

 その言葉を聞き取れることはできなかったクラピカだが、どことなく顔を曇らせたままの少年を見て苦笑する。器用な立ち振る舞いができず、心配をかけている自分が少しもどかしい。

 このまま続けても上手くごまかせそうになかったので、話題を変えた。

 

「さっきも聞いたが、君は迷子なのか?」

「……うん。父さんと母さんとはぐれちゃって。……あなたは?」

 

 少年が聞き返す。クラピカは初め正直に答えようと思ったが、口をついて出たのはちがう内容の言葉だった。

 

「そうだな……似たようなものかもしれないな」

「……そうなの?」

「ああ。……大切な人を、探しているんだ」

「大切なひと……」

 

 少年が繰り返す。「ああ」とクラピカはもう一度うなずいた。

 瞼の裏に浮かぶのは、笑顔を思い出すのが難しい、いくつもの顔と瞳。

 父。母。そして友の姿。旅立ちのとき、いつまでも手を振っていた……

 

 

 ぎゅっ。

 

 小さな掌が、クラピカを繋ぎ止めるかのようにギュッと手を握り込む。

 我に返ったクラピカが向くと、心配そうに自分を振り仰ぐ彼がいた。

 

 

「見つかりそう?」

 

 

 栗色の髪を揺らして少年がたずねる。その仕草に既視感のような感じを覚えながら、あどけない表情にクラピカは微笑する。

 

 

「…………ああ。もう少しで、見つかりそうだ」

 

 

 ずっと探していた、最後の緋の眼の手がかりは手に入った。

 もう少し。あともう少しで、全てが終わる。

 そうしたら、本当の旅が始められる。彼と約束した旅だ。

 

「そう」

 

 少年は少しだけはにかんだのち、口を開く。

 

「がんばってたんだね」

「……ああ」

 

 頷きながら、子供相手に何を話しているのだろうかとクラピカは思った。

 彼の持つ雰囲気が、口を滑りやすくさせるのかもしれない。こんな風に自分の心境を正直に、誰かに語るのはいつぶりだろうか。

 

(ハンター試験……いや、ヨークシン以来、か?)

 

 ホテルで念に関する秘密を話した時。真剣に聞いて、怒って、そして命をかけてくれた仲間たち。

 あの場にいた面々の顔を思い起こしたところで、クラピカは足を止める。そろそろ表通りのはずなのだが、路地は薄暗く、人の気配はほとんどない。

 記憶を辿りながら歩いていたが、袋小路に行きついてしまったのか。

 

「行き止まり……?」

「だいじょうぶだよ」

 

 呟いたクラピカに、少年が言う。するとまるで光が差したかのように、袋小路の向こう側にそれまで見えなかった小道が現れた。

 夕焼けと同じ色の街灯が、辺りに灯り始める。心なしか、遠い喧騒が風に乗って聞こえてきた。

 クラピカーと、己を呼ぶ声がした。数時間前も聞いた彼のもの。レオリオ、とクラピカは口の中でささやく。

 すると隣の彼が言った。

 

 

「だいじょうぶだよ、君はきっと」

 

 

 そう繰り返した横顔を見つめると、少年はするりとクラピカから手を放す。

 小さな手のひらがクラピカから離れる。茶色い髪が小走りで前に踊り出た。

 少年の長い服の裾が、ふわりと跳ねるように揺れた。

 

 

「ありがとう」

 

 

 振り返って笑った顔は、たしかに誰かと似ていた。

 遠ざかる身体に、クラピカは思わず腕を伸ばす。その名前を口にする前に、小さな影は路地の中へと消えていた。

 たたらを踏んだクラピカの前に、入れ替わりのように、残った太陽の光を引き連れるようにしてレオリオが現れた。

 

 

「クラピカ、お前どこ行ってたんだよ」

「レオリオ……」

 

 ズンズンと近寄ってくるレオリオは仮装の耳や手袋は外したのか、いつものスーツ姿だ。腰に手を当てた彼が、肩をいからせる。

 

「交代時間になっても戻らないっつって、ミザイストムが心配してたぞ。連絡しても返事がねぇって」

「え?」

 

 バイブ機能にしていたはずだが。クラピカは懐にしまっていた携帯を確認する。

 すると動きのなかった画面に、一気に通知が届き始める。ほとんどがミザイストムからのものだ。そしてレオリオの鬼電も。

 

「……今来た」

「そりゃ『今見た』の間違いだろ」

「マナーモードにしているから、連絡が来たらわかるはずなんだが……」

「その言い訳はヤツに話してやれ。で、今までどうしてたんだよ」

 

 ジト目で尋ねる彼に、クラピカは携帯から視線を上げ、もう一度周囲を見渡す。ほの暗い路地裏に目を凝らすも、少年の姿はやはり見えなかった。

 

「……子供が、迷子になっていて」

「そいつはどこだ?」

「わからない。さっきまではいたんだが」

「なんだそりゃ。ま、ここならもう大通りに近いから自力で帰れるだろ」

「帰れる……」

 

 レオリオの何気ない言葉を、クラピカは再度つぶやく。

 

 そうか。いつかは帰れる。見つけてくれる人がいれば。

 彼は笑っていた。私は諦めていない。

 なら、きっと大丈夫。

 

 不思議な邂逅を思い返すクラピカを眺めた後、指でサングラスをかけ直しながらレオリオは口を開いた。

 

「あー、お前の方は大丈夫か?」

「………」

 

 なぜ? と数度子供のように目を瞬かせたクラピカに、レオリオは罰が悪そうに続ける。

 

「なんかさっき様子が変だったからな。柄にもなく落ち込んでるんじゃねーかって」

 

 心配して探しに来てくれたのだと。照れ臭さに頭を掻く様子から、すぐにわかった。

 そっぽを向きつつもこちらを気にしているレオリオに、クラピカは眉尻を下げる。

 

「……相変わらずお節介だな」

「ウルセェ」

「でも君らしい」

 

 ふふっ、と唇に笑い声がこぼれた。おや、とその反応をレオリオが珍しく思っているとクラピカはそのまま穏やかな調子で答えた。

 

 

「だいじょうぶだよ」

 

 

 探しにきてくれる人がいる。見つけてくれる人がいる。

 だから大丈夫。自分も、彼も。

 一人なら迷ってしまう道も、君がいれば。

 

 

 多くを語らないクラピカにいささか首を傾げるレオリオだったが、それはいつものことだ。しばらく彼の様子を窺っていたが、やがて肩の力を抜いた。

 

「よし、じゃあ戻るか」

「ああ。ミザイストムにも謝らねば」

 

 携帯をポケットにしまい、彼の促しに従ってクラピカは歩き始める。

 無数の人で溢れる大通りの方へ、二人は進む。

 彼らを送り出すように、最後にまた声が聞こえた気がした。

 

 

『だいじょうぶだよ』

 

 

「あ。そういやお前、菓子くれてねーよな」

「ああ。昼にあった子どもたちにあげてしまった」

「じゃあイタズラ決定」

「……一体何をする気だ」

「そうだな〜、さっきのオレと同じ格好をしてもらうとか」

「断る」

「ミニスカポリスで警護とか」

「断固として断る」

「つまんねぇヤツだな〜そこはのれよ」

 

 

 それは、夢と今との交差点。

 

 

 

 

 

E N D

 

 

 

 

 

ハロウィンに紛れて、現世と別の場所が交差したような話です。

どちらかと言うと、逢魔が時の方が近いかも?

「待ち人」はクラピカにとってのレオリオとパイロ、パイロにとってのクラピカ、レオリオにとってのクラピカの、トリプルミーニングのつもり。

パイロの手が冷たいのは、すでに死んでしまっているため。(ごめんなさい)

けれど、それが暖かくなるのも、クラピカが暗い思考に捕まりそうなときに浮上したのも、パイロと手を繋いでいたから。

 

思い出が胸を切なくもするし、あたたかくもする。

たぶんクラピカにとっては、まだパイロや他の仲間たちのことも思い出にはできていないんだけれど、いつかそうなったらいいなと。

彼らのことを考えた時、悲しみだけじゃなくて、優しい感情を感じられるものであるようにと願いながら書きました。

 

 

2020.11.14