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 まばゆい緑の色彩のなか、見慣れた青が揺れている。

 

「あ、アルちゃん」

 

 思いがけない遭遇にナナシは声を上げるが、名前を呼ばれた当人は膝に乗せた本に手を添えたまま、樹木にもたれている。

 

「……うたた寝しとるんかいな」

 

 穏やかな寝息を立てているアルヴィスの横には、さらに数冊の本が積まれている。

 屈んで起こさないよう、そっと手を外して取ると、レギンレイヴの書庫から借りたのだろう、黄ばみかかったページにいくつもの専門用語が踊っていた。

 

「こんなん読んどるんか」

 

 高度な学術書をぱらぱらとめくってみるが、頭に入らずすぐに閉じる。

 

「……もうちょいで起きるかな?」

 

 正面から覗き込みしばらく寝顔を見つめるが、不意に何かを思い付いた表情で悪戯っぽく笑う。

 

「吃驚させたろ」

 

 楽し気に呟くと、眠る彼の傍らにナナシはそのまま腰を下ろした。

 

 

 

 

「……って全然起きへんやん!」

 

 あれから数十分。依然眠り続ける少年にナナシは思わずツッコミを入れた。

 当たり前だが返事が返ってくることはなく、所在なく座るナナシの横で、アルヴィスは気持ち良さそうに瞳を閉じている。

 

 ……疲れてるんやろな。いつも強くあらねばと、気を張っているから。

 

 

 

 ひだまりの中、木々がさわさわと音を鳴らす。

 その都度、海を映したような深い青が波打つ。

 太陽の光がきらきらと、中で輝いている。

 

 今は穏やかな眠りに身を委ねる、世界を背負い戦場に立つ、十六歳の少年そのものの姿。

 

 

「……お疲れさん」

 

 

 まだ夢の中にいる彼の、癖のついた髪をくしゃりと撫でる。

 草の上に寝そべり、近くに投げ出したままの本を、ナナシはもう一度開いてみた。

 

 

 

 

「————起きたか?」

 

 頭の上から一つの声が降ってきた。

 逆光で一瞬誰かわからず、ナナシは目元に乗せていた本を軽く押し上げ、間近でその顔を見上げる。

 奇跡のような色合いの髪が、視界の真ん中で煌めいた。

 

 

「……アルちゃん?」

「ほかに誰がいる?」

「それもそやな……」

「いつの間にかお前が隣にいたから、少し驚いた」

「自分は、アルちゃんが起きてたことに驚いたわ」

 

 

 驚かしたろ思ったのに、と呟くと、そんなことだろうと思った、とアルヴィスは呆れたように肩をすくめた。

 そのままナナシをじっと見下ろす。

 

 

「……いつまで人の本を日よけにしている?」

「え? ああ……」

 

 寝起きの頭がようやく状況を理解し、ナナシは起き上がりながら本を取りのける。

 

「返すな、ほい」

「ああ」

 

 古めかしい学術書を受け取ると、アルヴィスは手に持っていた本を脇に置いてそれをまた読み始めた。

 ……また?

 

「……ん?」

 

 彼は眠りに落ちるまで、今渡した本を読んでいた筈。

 そしてそれを再び開いたということは、まだ読み終えてなかった証に他ならない。

 けれども、先程までわざわざ別のものを読んでいたのは……。

 

 もしかして……もしかしたら……

 

「……何だ?」

 

 本を持ったまま、訝しそうにこちらを見る彼。

 

 

「……いや」

 

 

 

「何でもあらへん」

 

 

 眠っている自分を起こさぬよう待っていてくれた、と考えるのは、自惚れではないだろう。

 

 そんな素振りも見せない素直じゃない少年を見つめ、ナナシは秋晴れの空を思わせる爽やかな笑顔を浮かべた。

 

 

 

 

END

 

 →アルヴィスside      

 

 

 

 

 ツンデレと名高いアルヴィスですが、私の書くアルはツンデレじゃないなぁ…と思い、ほんのりそれを意識して書いてみた作品です。

 タイトルは“遭遇“の意の“encounter”から出来た、和製英語“エンカウント”を英語表記したものです。素顔の君との遭遇、といった意味で付けました。

 書きながら気付いたのですが、本文中でアルちゃんは「いつまで人の本を…」と言ってますが、正確にはレギンレイヴのですよね。ナナシにあてつけるように言った結果です(笑)

 こういった所も素直じゃなくて可愛いな、なんて思います。

 なお、短いですがアルヴィスsideもありますので、良ければ覗いてみて下さい。

 

 本当に短く拙いものですが、耶月涼様との相互記念として捧げさせて頂きます。

 涼様、この度は当サイトと相互して頂いて本当に有難うございます!!

 空回りばかりの未熟な作品ですが、良ければお受け取り下さい!!

 

 最後までご拝読下さり、有り難うございました!