真夜中のhide and seek

 

 

 

 部屋に備え付けられた振り子時計が、残り少ない時を打った。

 今日もウォーゲームを勝利で終えたメルの一同は、夕食も済ませ、男女別々に割り当てられた寝室でくつろいでいる所だ。あとは寝るだけだが、それにはまだ早い。

 ベッドの上で体を伸ばしていたギンタは、手持ち無沙汰な様子で起き上がり、同室の面々を眺めた。

 皆思い思いのことをして時間をつぶしている。特にこれと言ってしたいことも見つからず、ギンタは再度ベッドに体を沈める。

 と、頭の下で組んだ手が、柔らかい、白いものにぶつかる。ぼすっという音を立てたそれをギンタは掴み上げた。

 投げるのにも、人に当てるのにも程よい固さ。

 

「なあなあ、枕投げしねぇ?」

「枕投げ?」

「旅館で修学旅行と言ったら、枕投げだろ!」

 

 言いながらギンタはベッドから飛び降り、ボール代わりの枕を構えた。読んでいた本から目を離し、アルヴィスが顔を上げる。

 

「ギンタ。“シュウガクリョコウ”とやらが何かは知らないが、ここは旅館じゃないぞ」

「わかってるってそのくらい!」

「で、何するんスか? 枕投げって」

「まさか読んで字の通り、枕を投げつけ合うのではあるまいな?」

「当ったりー! ルールはとにかく相手に枕をぶつける! そんで最後まで立っていた人の勝ち!」

「この部屋の物はすべて借り物だぞ。壊す気か?」

「ちょっとぐらいなら大丈夫だって! なにもARM使うわけじゃないんだし」

 

 皆でやろうぜー! というギンタの提案に、興味深そうに話を聞いていたジャックが賛成する。ナナシもベッドから降り、参戦するべく手足を伸ばした。

 

「せやな。どーせ朝まですることもないんやし、気晴らしに運動でもしたるか!」

「枕がぶつかると危ないから、一応ランプとか端に寄せとくっスか。部屋の隅に置いとけば壊れないっスよね」

「そうじゃな」

「おい、本当に始める気か」

 

 ごそごそと家具の移動を始めた三人とバッボに向かい、アルヴィスが困惑した声音で聞く。

 

「アルヴィスもやろうっス!」

「いや、オレは遠慮する」

「そんな固いこと言わんと、アルちゃんも参加しぃ!」

 

 言うが否や、ナナシは本に視線を戻そうとしたアルヴィスに駆け寄り、盗賊らしいあざやかな手つきで彼の指から本を抜き取った。

 

「な、おい!」

 

 長身を生かし、彼の手が届かない位置に本を掲げたナナシに、アルヴィスは怒鳴りかける。しかし大きないびきを立てるアランを指で差され、静かにした方がええよ? というジェスチャーにうっと言葉を噤んだ。

 

「参加したら返してあげるで?」

「……わかった。一回だけだからな」

「よっしゃ!」

 

 こうして、メンバー唯一の理性とも言ってもいい彼の参加が確定する。

 

「枕は何個でも使ってええんか?」

「ああ! 沢山あった方が面白いし」

「エドもやるっスよ。ほら、枕持って」

「わ、私もですか? なにゆえそのような……」

「スノウの代理っつーことで」

「お主が負けたらスノウちゃんの負けじゃからな。覚悟して臨むがよい!」

「な、姫様の負け!? それは認められません!! このエドワード、全力でお相手いたします!!」

「そんじゃ自分は、ドロシーちゃんの代理っちゅーことでええ?」

「さっさと始めるぞ、ギンタ」

「おう!」

「誰もツッコミなしかい」

「アランはどうするっスか? 起こす?」

「放っておけば良いじゃろ」

「じゃあよーい、スタート!!」

 

 試合開始と同時に、全員が枕を投げた。

 エドが無茶苦茶に投げた球(枕)をギンタは難なくよける。ジャックはアルヴィスの投げたのを慌てて屈んでさけ、ナナシはギンタから飛んできたのを余裕の笑みでかわした。だがアルヴィスがジャックの投げた球(枕)を拾い、数歩踏み出して勢いよく投げつけたのを顔面にまともに喰らう。倒れ込んだところで次々とほかの仲間から攻撃を受ける。

 集中砲火である。

 

「ちょ! なんで自分ばっか当てんの!」

「「「「何となく」」」」「ムカつくから」

「アルちゃん、さっきの根に持っとるやろ……」

 

 何とも「らしい」それぞれの答えに、枕の山に埋もれたナナシは弾丸(枕)を喰らった顔をさすった。

 

「正直やねぇ……ホンマ!」

 

 しかしすぐさま切れ長の瞳を細め、反撃にかかる。枕の山から這い出て、崩れていくそれを辺りに投げまくる。ついでにかけ布団やシーツも投げる。

 一番近くにいたアルヴィスはジャンプしてそれらを避けた。ところが更に飛んできたくしゃくしゃのシーツに、着地した足がずるりと滑る。

 

「うわっ!」

 

 思わず声を上げ、アルヴィスは尻餅を付く。そこへギンタが球(枕)を投げた。咄嗟に腕で庇うが、異界の人間の並々ならぬ腕力が込められた球(枕)は、見事アルヴィスに命中する。

 

「よっしゃ!!」

 

 普段やりこめられているお返しとばかりに、ギンタはガッツポーズをする。アルヴィスの隣でおろおろしていたエドは、ナナシの投げたシーツで二次被害を受ける。

 しばらく動きを止めたアルヴィスは、ふっと目の据わった顔で笑った。

 

「……バカなのに力だけはあるな、ギンタ」

 

 ギンタは身構えるが、立ち上がったと思う間もなく、アルヴィスは試合のときに見せる瞬間移動とも言える動きでギンタの傍まで移動し、超至近距離から球(枕)をぶつけた。

 

「だっ!!」

 

 倒れ込むギンタに息を吐くアルヴィスだったが、「そこだぁー!」と背後からジャックが投げてくるのに気付きかろうじてかわす。

 球(枕)の勢いで数メートル吹っ飛んだギンタは、痛む顔を押さえるが、そこに球(枕)をくわえたバッボが正面から迫ってくる。

 ぎょっとしつつも両手で受け止めると、ギンタはバッボを素早くシーツにくるみ、驚く彼を近くの相手めがけてぶん投げた。

 

「な、何をする! こら! 誰かこのシーツを剥がさんかい!」

「ちょっとギンタ!! バッボ投げるのは反則っスよ!」

「枕投げにルールはねぇよっ!」

「くっ! ダークネスが使えれば楽なんだが!」

「ARMは使用禁止やでー!」

「わかってる! お前こそ、やたら布団をばらまくな!」

「フィールドにあるもん何でも利用すんのが、賢い戦い方や!!」

「姫様ぁ、絶対負けませんぞぉ!!」

 

「だーーーーーうるせぇっ!!! 今何時だと思ってんだ!!! 静かに寝させろ!!!」

 

 乱闘と化した戦場で、突如怒号が響き渡った。

 布団をはねのけたアランの形相に、一瞬だけ、一同は戦いの手を止め静かになる。

 一瞬だけだった。

 

「お言葉ですがアランさん、まだ十時ですよ」

「オッサン寝るの早すぎなんだよ」

「犬から離れたと言うのに、よく寝る男じゃのぉ」

「あんま寝てると、脳みそ溶けるで?」

「大体、いつもどんなにうるさい時も平気で寝てんじゃないっスか」

「俺ぁお前らと違ってデリケートなんだよ!!」

 

 何とも説得力のない台詞だったが、それに一番長い付き合いの男が笑い混じりで突っ込む。

 

「何を仰いますか。私のような繊細な者ならともかく、アラン殿がデリケートなんて……ぷぷぷ」

「てめぇ……なめんなよ犬っコロ!!」

 

 寝起きで悪い機嫌をさらに下降させ、アランはたった今まで頭の下敷きにしていた枕を引っつかみ、大きな掌で力任せに振りかぶった。

 すさまじい速度の超剛速球(枕)がエドへと向かう。

 

「ほっ!」

 

 その超剛速球(枕)を、エドは緊急時のみ発動する反射神経で軽やかにかわした。

 アランと身体を共有していたからこそ出来る芸当だ。

 しかしその時、背後でノックと「がちゃっ」とドアが軋む音がした。

 

「皆、起きてるー?」

 

 べしっっ!!!

 

 扉を開けたスノウの顔面に、アランの超剛速球(枕)が命中した。

 何度も言うが、超剛速球(枕)である。腕力が自慢のクロスガードNo.2が投げた超剛速球(枕)である。

 

「………………」

 

 一同の顔色が変わる。エドは真っ青を通り越して真っ白である。

 一緒に来たドロシーは、動かないスノウから引きつった表情で一歩下がった。スノウの肩口にいたベルも彼女から離れ、ドロシーの髪の陰に隠れ様子を窺う。

 

 ぼてっ………

 

 枕が剥がれるようにしてスノウの顔から落ちた。

 全員が彼女を凝視する。しかし、直視はできない。

 

「………だあれ?」

 

 うっすら赤くなった顔に笑みを貼り付け、スノウが尋ねる。

 

「今投げたの、だあれ?」

 

 男性陣はだまってアランを指差した。スノウの笑顔がアランを凍り付けにする。

 

「アラン、ちょっと向こうでお話ししたいんだけど、いいかなぁ?」

「お、落ち着け、スノウ」

「私十分落ち着いてるよぉ?」

 

 嘘だ……と誰もが思ったが、勿論誰も言える訳がなかった。アランは終始笑顔のスノウにずるずると引きずられるようにして連れて行かれ、部屋から姿を消した。

 

「………で、皆何やってたの?」

 

 時空の狭間に取り残されていた面々は、ドロシーの言葉に我に返る。

 

「ええっと………枕投げ、そう、枕投げや!」

「まくらなげ?」

「オレの世界の、スポーツみたいなもんかな」

「……スポーツにしては妙な物を使うのね」

 

 ドロシーは扉の前に落ちているそれを拾い上げ、くたびれた枕を不思議そうに見た。

 

「大体旅行とかで皆と同じ部屋に泊まった時、やるのが決まりなんだ!」

「ふぅん〜」

「陣地などはありませんから、ルール無用のドッジボールとでも言いましょうか」

「投げるのはボールじゃなくて、枕っスけどね」

「そしたら何て言うんやろ、ドッジ枕?」

「そっかぁ、それで枕が飛んできたんだね!」

 

 緊張も解れ、和気あいあいとし始めた空気の中、戻ってきたスノウの無邪気な言葉に一同は少しだけ肩を強張らせる。

 

「あ、スノウ。えーっと、ダイジョーブ、か?」

「うん! 心配してくれてありがと、ギンタv」

「…………アランさん、大丈夫ですか?」

「…………」

「……返事がないっス……」

「暫くそっとしとこ……」

 

 スノウの機嫌は元に戻ったようだが、彼女に首根っこをつかまれ屍のようになって帰ってきたアランは動く気配がない。男性陣は心の中で同情した。

 しかし無論なにをしたのかと、彼女に言及するはずもない。

 

「……それにしても皆、よくここまで散らかしたわね……」

「ほんとー……」

 

 当事者ではないのでまたもいち早く立ち直ったドロシーは、ベルと一緒に呆れの混じった口調で室内を眺め渡した。

 上かけはひっくり返り、シーツはぐちゃぐちゃ。家具こそ壊れていないが、散々投げられた枕はいろんな所に散らばり、一部のベッドは蹴られ、押され、定位置から大きくずれている 。

 昼間レギンレイヴのメイドさんが綺麗に整えてくれた部屋の面影は、影も形もない。

 周囲の惨状を認めた男性陣は、ばつが悪そうにそれぞれ頭を掻いたり、明後日の方向を向く。

 そのいかにも気まずそうな反応に、女性陣は顔を見合わせる。

 

「……ふふっ……」

 

 程なく聞こえてきた声に男性陣が視線を戻すと、女の子たちは仕方ないなぁと呆れつつも、何だか楽しそうな笑みを覗かせていた。

 

「ま、たまにはいいわよね、こんなことも」

「私たちも入れて! ギンタ!」

「ああ! 皆でやろうぜ!」

「では、第二戦目ですな」

「ベルはアルと組むー!」

「ならばアランももう一度起こすかのぉ」

「せやねぇ。多分こんままやったら踏まれるで」

「ねぇ、どうせやるなら、外でやりましょうよ」

 

 準備しようとするメンバーに、ドロシーはアンダータを掲げてみせた。

 

 

 

「どりゃあー!」

「いっ、あ!!」

「ギンタアウトー!」

「ギンタぁー!」

「今のは惜しかったねー」

「ほら、アウトだから外野に移動よ、ギンタン!」

「くっそ〜ナナシ覚えてろよ!」

「……っと。えーい!」

「わわっ、え、あー!!」

「スノウちゃん、ナイス!」

「リングアーマーもやられた……ピンチっス!アルヴィス、入ってー!」

「わかった。ギンタ、外野は任せたぞ」

「ちょっとー、ガーディアンの動き悪いわよー?」

「オッサン、ちゃんと動かしてやー」

「無茶言うんじゃねぇ、同時に三体コントロールしてんだぞ!」

「数合わせのためとはいえ、ちょっとアランさんに負担じゃないか?」

「いいの! 豪傑アランにとっては、こんなの大したことないよ、ね?」

「スノウ、まだ怒ってるっスね…」

「姫様がこわーい…

「それっ! あ、やばっ!」

「ギンタ! そっち行ったぞ!」

「復活のチャンスっス!」

「おおーし! 覚悟しろよ、でりゃああ!!」

 

 

 

「ジャーンケーンホイっ!ホイっ!ホイっ!」

「あ……」

「はーい、ギンタが鬼ー!」

「ちぇー、皆チョキでオレだけパーかよ〜」

「よっぽどお前に合ってるんだな、パーは」

「うっせー!」

「じゃあ、ギンタは一分数えてね」

「その間に私たちは隠れるから」

「へーい」

「皆さん、森から出てはいけませんぞ、城から離れてしまいますからね」

「わかってるっスよー!」

「じゃあ数えるぞー! いーち、にーい…」

 

 

「……ごじゅく、ろくじゅう! よし、じゃあ探すとすっか!」

 

 

 

 

「……皆どこにいんのかな………いてっ!」

「ってて〜……こんなところにボール落としとくなよー! ………ん?」

 

「……………バッボ」

「な、何を言うかギンタ! ワシはただの岩じゃ!」

「喋る岩はジャックのトコのだけでいいっつーの……」

 

「ワシが一番最初か」

「お前もうちょっとマシな隠れ方しろよな」

「ふん、ワシに気付かずつまづいたお前が悪いんじゃい!」

 

 がささ

 

「ん?」

「む、何か物音が……」

 

 しーん 

 じっ…

 ゆっさゆっさゆっさ

 

「うわわ、どおぉ!」

「ジャック見ーっけ!」

「ら、乱暴っスよ、ギンタ〜」

「ワリィ、この方がてっとり早くて」

「あ、バッボももう見つかったんスか」

「うむ。残りは七人じゃな」

「ベルは多分アルヴィスと一緒にいるよな。エドは……」

 

 がささ がさ

 

「……あれ?」

 

 しーん

 じーっ…

 ゆっさゆっさゆっさゆっさゆっさ

 

「どわーっ!!」

「え!? ナ、ナナシ!?」

「オヌシ、第二家来の上に潜んでおったのか!」

「っつ〜、上手くいったと思ったんやけどな〜」

「もしかして、最初の音もナナシか?」

「せやで〜。目立つ人間の陰に隠れてれば、そいつが囮になって自分は見つからん。盗賊の知恵や」

「へぇ〜、なるほどな〜」

「……理屈はわかるけど、なんかずるい……」

 

 

「ほんなら、自分らはさっきの場所に戻っとるでー」

「早く皆見つけるっスよー、ギンター」

「あまり待たせるでないぞー」

「ああ! 後でな!」

 

 

 

「……! 気配……」

 

 シーン……

 ザッ!

 ブンッ!

 

 

「ぃいっ!!?」

 

  パシンッ!!

 

「あーあ、見つかっちゃった」

「な、な、何すんだよアルヴィスー!!」

「どのみち見つかるなら、お前の反射神経を試してみようと思ってな」

「だからって、13トーテムロッドで殴りかかるか!?」

「いいじゃない、一応止められたんだから」

「まぁ、結果は及第点ってところだな。もっと気配を読めるようになるんだな、ギンタ」

「なるんだな!」

「……かくれんぼに反射神経って必要だっけか……?」

 

 

 

 

「(……! この気配……)」

 

 

「あれ〜? おかしいな〜、皆どこだ〜?」

「(うふふ、よし! 気付いてない!)」

「ここにもいないな〜、こっちも違うな〜」

「(探してる、探してる!)」

「ん〜? もしかしてこっちか〜?」

「(え、え、うそ?)」

「スーノーウ?」

「ギ、ギンタ!! 私スノウじゃないよ、スノーマンだよ!」

「……お前もかよ………で、エド?」

「わ、私はユキちゃんですぞ、ユキー!」

「いや、ユキちゃん鳴かねーし」

「もう、ギンタわかってたなら先に言ってよー!」

「ははは、わりぃわりぃ!」

 

 

 

「あとはオッサンとドロシーか…って……」

「おぅ、来たかギンタ」

「オッサン……隠れる気ないだろ」

「ガキじゃあるめーし、真面目にやれるかよ、こんなもん」

「そんなこと言ってると、またスノウに怒られるぞ」

「……………」

「どーしよっかなー、言っちゃおっかなー」

「…………ギンタ。明日の朝食、俺の分も食っていいぞ」

「やったー! いや〜、オッサン見つけるのホント大変だったぜ〜」

「よく言うぜ……」

 

 

 

「……遅いなぁ、ギンタン……」

「あ! ドロシー!! やっと見つけた!」

「ギンタン!! ずっと待ってたんだよー?」

「そんな高い枝、箒で昇ったんだろ? 普通わかんねーって!」

「そう? サルとか木に登ってると思ってたけど」

「ああ、ジャックとナナシは木の上に隠れてたけど。今ドロシーがいる所よりずっと下だったぞ」

「ふ〜ん、二人ともだらしないわねぇ……っと」

 

 

「時間かかってごめんな、ドロシー」

「ううん。見つけてくれてありがと、ギンタンv」

「えへへ! あ、ドロシーが最後だぜ」

「そうなの? じゃあ最後まで隠れてた私が、次の王様ね!」

「あれ…そんなルールだっけ?」

「何させよっかなー……うふふv」

「……ドロシーさん?」

 

 

「はあ、はあ……疲れたー!」

「もうだめ……しばらく動けない〜」

「んん? もう二時じゃねぇか」

「ホント? まだ全然眠くないや」

 

 その後、力一杯遊び通したメンバーは、疲れすぎて笑いながらそれぞれ草原へ倒れ込んだ。

 ひんやりと顔に触れる空気と、夜風が撫でていく草の音色が心地良い。

 

「私夜中にこんなに遊んだの、生まれて初めて!」

「オイラも!」

「オレも。夜はいつもゲームしてたしな」

 

 笑顔で話す二人を見たあと、ギンタは満月が浮かぶ夜空を見上げた。

 これまで、夜は遅くまで一人でテレビ画面に張り付いているのが常だった。

 メルへヴンに来なかったら、真夜中、月がこんなに眩しくて、その光で草原が美しく輝くなんてことも知らなかっただろう。

 

「……あ、流れ星!」

「うそ! ほんと!?」

「ほんとだって! なぁ!」

「ああ。確かに見えたな」

「えー? でも全然わからなかったよ?」

「今日みたいな月が出てる夜だと、星が見えにくいんだよ」

「へぇ、そうなんスか〜」

「あ〜あ、願い事しとけばよかったぁ」

 

 しばし他愛ないが賑やかな会話をしたのち、一同は草むらに寝転がったままお互いを見合った。

 視線が通い合い、誰からともなく口元に笑みを浮かべる。

 

 

「さ、帰ろっか!」

「ああ!」

「おう!」

 

 

 立ち上がった彼らを、夜空の彼方から、月と無数の星がさえかで優しい光で包んでいた。

 

 

 

 

END

 

 

 

 

 

 携帯サイトのキリ番60000を踏まれた新希様のリクエスト小説です。「メルチームで明るい感じの話、出来れば全員」とのことだったので、皆で夜中に遊んでもらいました。

 メルメンバーが一緒に過ごしている時間は実はとても短く、ともすれば切ない空気になってしまうのですが、今回はとにかく底抜けに明るい話を目指しました。そしたら思いがけず、メンバーよりエドが目立ってしまったような…(笑)

 でもギンタ達8人だけでなく、ベルもエドも含めた全員がメルですので、「カルデアの悪魔」や「クラヴィーア」での皆の会話を思い出しながら楽しく書きました。

 

 余談ですが、私は修学旅行の枕投げでナナシさんのように集中砲火を喰らい、軽くマジ泣きした思い出があります。息が出来ない勢いで投げられると結構深刻なので、枕を投げる時は皆様ご注意下さい(笑)

 

 新希様、この度は素敵なリクエスト有難うございました。ご期待に沿えているかわかりませんが、良ければどうぞお受け取り下さい!

 最後までご拝読下さり、有り難うございました!

 

2011.11.28