hope

 

 

 

 3rdバトル後の修行も終わり、レギンレイヴの兵士も使う共用浴場から出てきたギンタは、近くの庭のベンチで星明かりに光る小さな羽の輝きを見つける。

 

「……あ、ギンタ」

「よ。アルヴィスを待ってるのか?」

「うん」

 

 首にタオルを巻いたベルの隣に、厨房の人からもらった牛乳瓶を手に腰を下ろす。ぽんっと軽快な音を立てて蓋を開けると、よく冷えた牛乳を一気に喉に流し込んだ。

 

「………ねぇ、ギンタ」

「ん?」

 

 口を離してギンタが横を見ると、ベルは初めて彼に笑いかけた。

 

 

「アルの呪い、解こうとしてくれてありがとう」

 

 

 思いもよらなかった言葉と笑顔に、ギンタは目を見張る。修練の門に入っていたのでずいぶん前のような気もするが、3rdバトルは昨日の午前中にあった出来事なのだ。

 その後にあったやりとりも。アリスを発動させて、彼とアランの呪いを解こうとしたことも。

 

 

「アルのこと、仲間だって考えてくれてるってわかって、嬉しかった。ギンタはアルのこと、嫌いなのかと思ってたから」

「……そんなことねーよ」

「うん、今は知ってる。……口には出してないけどアルもね、すっごく嬉しいはずだよ」

 

 

 間近で初めて見るベルの可愛らしい笑顔と一緒に、同じくあの後はじめて見たアルヴィスの笑顔が重なって、知らずギンタは罪悪感に苛まれる。半分ほど中身の残った瓶を持つ手に力がこもる。

 

 

「……けど結局、オレはアルヴィスの呪いを解くことができなかった」

 

 

 普段の厳しい態度でないそれは、綺麗で優しかった。けれど寂しさや切なさが滲んでいて、ギンタはやり切れない気持ちも覚えた。

 

 

「アルヴィスは笑ってたけど……“もしかしたら”って、余計な期待を抱かせた気がする」

 

 

 ギンタの後悔に歪んだ表情を見たベルは、遠くの星を見上げながらぽつりと言う。

 

 

「………多分アルは、呪いが解けないって知ってたから」

 

 

 その言葉にえ? と弾かれたようにベルを向いたギンタを、視界の端に映しながらベルは尚も夜空を見上げた。

 大好きな彼の髪に似た色の空を。

 

 

「……この六年間ね、アルは色々な所を回ったの。腕を鍛えながら、洞窟とか、遺跡とか。珍しいホーリーARMを見つけたりもしたんだよ? でも………」

 

 

 言葉が綴られるうちに、声が萎(しぼ)んでいく。

 

 

「………どんなに強力なARMでも、アルの呪いは解けなかった」

 

 

「……アルヴィスは、諦めてるのか?」

「半分くらいは、そうかもしれない」

 

 

 ベルは視線を地に落とした。

 

 

「でもね、心の底ではきっと死にたくないと思ってる。誰だって諦めきれるわけないもん」

 

 

 その小さな体に彼への目一杯の気持ちを宿して、ベルはギンタをじっと見据える。

 

 

「だからギンタ。もっと強くなって。強くなって必ず、ファントムを倒して」

 

 

 ゆっくりと頷いたギンタに、ベルは微笑んだ。と、廊下から彼の足音が響く。

 それに気付いたベルは「今の話、アルには内緒だよ」とささやいて、浴場から出たばかりのアルヴィスの元へと飛び去った。

 

 

『お待たせ、ベル』

 

 

 最後に見えた彼女の背中と、聞こえてきた彼の声に、ギンタは自分が託されたものを改めて考える。牛乳瓶に再び口をつける。

 体に柔らかい冷たさが、染み渡った。

 

 

 

 

END

 

 

 

 

 

ギンタとベルの二人だけの会話ってないなーと思い、書いてみた代物です。結果何故かお風呂上がり設定に(笑)そしてやっぱり短い!(汗)

お城の風呂ってどんな物なんだ? と本筋にあまり関係ないことを気にして、つい色々調べたりしてしまいました。今の所、男性陣は兵士の共用浴場ですが、女性陣はレギンレイヴ姫専用のバスタブを借りてるんじゃないかななんて思ってます。

 

書いていくうちによくわからない話になってしまいましたが、知らない所で交錯してる誰かの思いや願い。それは重いかもしれないけど、同時に暖かい絆でもある…そんなことを表せていたらいいなと願います。

 

とても短いですが、ご拝読下さり有り難うございました!

 

2011.2.6