君に似た白

 

 

 

 ウォーゲームの合間の休みの日。

 その日は朝から雪が降っていた。

 午前中は皆と城で過ごし、午後になってもやまない白に少しばかり好奇心を覚え、アルヴィスは一人、雪降る森へと出かけた.

 

 歩みを進める度、小さな音が生まれ足跡がつく。

 そんな感覚が妙に楽しくて、アルヴィスは足を休める事無く、散歩を続ける。

 

「……綺麗だな」

 

 見慣れている筈の景色は全て白に染まり、音が吸い込まれそうなほど静かで美しい。

 城から見下ろした光景も綺麗だったが、こうして近くで白に囲まれるのも悪くない。

 少しだけ、この世界に飲み込まれそうで怖いが。

 

 そんな事を思いつつ、進み続けていると思わぬ人物に出くわした。

 

 

「へぇ……奇遇だね」

「! お前……」

 

 

 咄嗟に腰に付けているチェーンに手を伸ばすが、目の前の男は手をひらひらさせながら話しかけてきた。

 

 

「そう警戒しないで。今回は君たちに用があった訳じゃないから」

「今回じゃなかったらどうするというんだ」

「そうだね、痛み付けるだけかもしれないし殺すかもしれないけど、今日は特別かな」

「……何故」

 

 チェーンに手を当てたまま、慎重に言葉を選んで問う。

 

 

「こんな綺麗な景色を血に染めるのは、とても楽しそうだけど少し無粋な気もするからね」

 

 

 個人的に、君とは戦いたくないのもあるけど。

 その言葉は告げずに、チェスの司令塔である男は少し微笑んだ。

 

「……同感だな」

 

 構えを取っていた身体の緊張を解き、アルヴィスはチェーンから手を離した。

 

「停戦協定、だね」

 

 そう言うファントムの言葉には答えず、アルヴィスは背を向けて立ち去ろうとする。

 

 

「君は雪が似合うね」

「……いきなり何だ」

 

 

 思いっきり怪訝そうな顔をするが、ファントムはお構いなしにくすくすと笑う。

 

 

「思ったから言ってみただけだよ」

 

 

 そう言いながらファントムは空へと手を伸ばし、舞い落ちる風花に触れる。

 

 

「僕の呪いにも屈せず、強い瞳を持つ君には」

 

 

 手のひらに触れたその花は、すぐに溶けて無くなった。

 何とも儚い、しかしだからこそ人々を惹き付ける....

 

 

「この白が似合う」

 

 

 アルヴィスはしばらくキョトンとしていたが、やがて小さく答える。

 

「……いや」

「?」

「オレに雪は似合わない」

「どうして?」

 

 問われたアルヴィスはわずかに微笑して

 

 

「……綺麗すぎる」

 

 

 と言った。

 

 両手を前に出す。そこに降りてくる雪。

 触れた欠片はファントムのと同じように、一瞬のうちに溶けた。

 

 

 沢山の人を殺した。守りたいと言いながら沢山の血を流した。

 自分の行動が間違っていたとは思わないが、それでも

 静謐でどこか荘厳で、汚れないこの白と比べて。

 自分は汚れすぎている。

 

 血で。もしくはもっとどす黒い、暗いもので。

 

 

 

「……そうかなぁ」

 

 そう言う風に考えられる事が、綺麗である証だと思うのだけれど。

 結構気を張っちゃう性格なんだろうなぁ、とファントムは目の前の少年を見やる。

 

 

「……そうさ」

 

 

 間延びした声に返す言葉は、白に埋もれて他の誰かには届かない。

 二人だけの、世界。

 

 

「……綺麗だね」

「……そうだな」

 

 

 同じ様な言葉を淡々と交わす。

 

 

「でも、少し残酷だ」

「……そうかもな」

 

 生も、死も、業も、罪も、全て覆い尽くす、

 無情なまでに優しく、冷たい白。

 

 

 

「……天国も」

 

 

 しばらく黙っていたアルヴィスが、ポツリと声を発す。

 

 

「こんな場所なのかもしれないな」

 

 

 隣にいる純粋な少年とは違って、自分とは全く縁のない場所。

 行くつもりはないからいいけれど。

 

 

「……そうだね。きっと綺麗なだけじゃないんだろうね。……行きたいの?」

「……さあな」

 

 

 曖昧なのはきっと、行きたい気持ちも少しはあるからかな? とファントムは思った。

 

 

「こちらに来るつもりは?」

「ないね」

 

 

 調子に乗って誘ってみるが。アルヴィスは即答した。

 

 

「オレは絶対に、お前と同じ世界には行かない」

 

 

 毅然とした表情でファントムを見つめた後、アルヴィスは再び背を向けて、歩き去って行く。

 その背を今度は呼び止めずに、ファントムは静かに見送った。

 

「つれないなあ」

 

 そんな彼だから尚更欲しいのだけど。

 くすくすと微笑みながらファントムは空を仰いだ。

 

 

「……綺麗だ」

 

 

 いまだに止む気配の無い、全てを覆い隠す白。

 これに覆われれば、少しは誰よりも真直ぐで綺麗な少年に近づけるかな?と、

 心の何処かで思ってみたりした。

 

 

 

END

 

 

 

 

 

初めてのファンアルでしたが……これは果たしてファンアルになっているのか(滝汗)

雪の持つ、綺麗だけれどどこかダークな面が、ファントムとアルヴィスに合いそうな気がして、少しでもそれを表そうと努力してみました。

 

この話を書く際、「snow crystal」という歌から来るイメージを参考にしました。

歌詞がすごくファンアルな感じで、とても素敵な曲です。

機会がありましたら、是非聞いてみてください。

(テレビアニメ・最遊記RELOADのイメージアルバム Vol.1に収録されています)

 

ご期待に添えてるか不安ですが、遼架さん、どうぞ受け取ってください!

最後までお付き合いくださり、ありがとうございました!