Not silent night

 

 

 

 ケーキの上に降らせる砂糖のような粉雪が、紺碧の空から徐々に仲間を増やして降りてくる。

 

「あ〜〜お〜も〜い〜〜」

 

 傘を持ってくれば良かったと思うけど、今となってはあとの祭りだ。

 もっとも持っていても、こんな大荷物では傘を開けないだろうけど。

 

「もー、スノウもドロシーも注文多すぎるのよぉー」

 

 油断したら中身がこぼれそうな大きな紙袋を二つも抱え、ベルは大量の買い物をお願いしてきた人物を呪うと、よろよろと姿勢を立て直した。

 このまま時間をかけていたら、クリスマスパーティの準備が遅れてしまう。

 必死に足を動かすが、トナカイの角のカチューシャが落ちそうになって、曲がり角で慌てて踏み止まる。

 途方に暮れてため息を吐いたベルの前を、角の反対側から出てきた、髪と同じ青色の傘を差した少年が通りかかった。

 

「あ、ベル」

 

 

 

「ありがとう、アルヴィス」

「どういたしまして」

 

 ベルが持っていた紙袋をアルヴィスが抱え、アルヴィスが持っていた傘をベルが差して歩く。

 

「でもどうしたの? パーティの準備してるんじゃなかったの?」

「……材料の追加がてら、ちょっと逃げてきた」

「逃げた?」

「スノウとドロシーが、おぞましいものを作っていたから」

「……なーるほど」

「……味見はごめんだ」

 

 女性陣が力を入れた料理を「おぞましいもの」と躊躇いもなく表現したアルヴィスは、被害に巻き込まれまいと仲間を置いて逃げてきたらしい。

 ベルが大好きな彼は、結構強(したた)かな性格をしている。

 

「残ってるのは?」

「ギンタとジャック」

「……かわいそー」

 

 悲惨な目に遭っているだろう彼らに思わず合掌する。同時に、隣で大量の荷物を持ってくれている彼に申しわけない気持ちにもなる。

 

「……そんなに持たせちゃってごめんね」

「この程度なら大丈夫だよ」

「でも缶詰とかもあるから結構重いでしょ? もう一人位いたらいいんだけど……」

 

 そうぼやいた白い息の先に、長い金髪の後ろ姿が見えた。

 

「あ、ナナシ」

 

 

 

「何で自分がこないなことに………」

 

 「丁度良かったナナシ。これ持ってくれ」と真顔で頼まれたナナシは、二人の視線の圧力に耐え切れず荷物持ちと変化した。

 せめてもの情けか、両手の空いたアルヴィスが両腕の塞がったナナシの頭に傘を差して歩いてやっている。

 

「ベルに全部持たせるなんて、出来ないだろう?」 

「そりゃあ女の子にはな。けど男手ならアルちゃんもおるやん」

「アルに全部持たせるなんて、出来ないでしょー?」

「……結局自分が全部持つことになるんやね……」

「文句なら、こんなに沢山の買い物を頼んだ二人に言うんだな」

「へいへい」

「で、どうだったの? ガリアンにピザを注文してきたんでしょ?」

「ああ。『こないだチャップの飴をつまみ食いしとったの、皆にバラされとうなかったら割引せぇ』ってな。半額で引き受けさせたで」

「すごーい!」

「……容赦ないな」

「自分目撃しただけですもん♪  何も悪くあらへん♪」

 

 ガリアンはナナシのバイトしているピザ屋「ルベリア」の店長だ。見事な経営手腕を持ち、懐の深い性格で部下たちにとても慕われている。

 しかし先日、更衣室に置きっ放しだった後輩の飴をうっかり食べてしまい、それを打ち明けるタイミングを逸して以来、罪悪感に悩まされている。そこをこれ幸いとつついたしい。

 雪の妖精が踊る天の下、三人(主にナナシ)は大量の荷物に苦労しながらパーティ会場であるアランのアパートに戻った。

 

 

「ただいま」

「ただいまぁー」

「帰ったでー」

「おかえりー! 買い物おつかれさま!」

「あ、アンタ達一緒に帰ってきたんだ」

「あー!! アルヴィス!! お前逃げただろこの野郎!!」

「ついさっきまで一緒にいたのに、酷いっス!!」

「ご愁傷様。同情はするが詫びはしない」

「オレ達が何食わされてたと思う!? ○○を××した☆☆だぜ!!」

「なんか言ったぁ? ギンタ?」

「……ナンデモナイデス」

「ボクタチ、ナンニモイッテナイデス」

「…………よっぽどのもんやったんやな」

「ドロシー、頼まれたケーキの材料買ってきたよー」

「あと、サラダに混ぜるこれも」

「さんきゅー! うん、これこれ。これがないと味がしまらないのよねぇ」

「…………漢方薬?」

「……何でケーキに?」

「突っ込んだらアカン。突っ込んだら負けや皆」

 

 イモリの黒焼きを擦り下ろし始めるドロシーを目にし、男性陣+ベルは現実逃避をした。

 なにを勘違いして料理の腕に自信があるのか謎だが、この二人は自分で味見をしないから始末が悪い。

 

「ちゃんとリリスの店で、普通のケーキ頼んどいたから心配ねぇぞ」

 

 アパートメントのドアが開いて、白い紙箱を持ったアランが入って来た。

 

「お! マジか!!」

「でかしたでオッサン!!」

「えー、せっかく張り切って作ろうと思ったのにー」

「今日は前座でいいじゃねぇか。お前たちのは後でゆっくり食べようぜ」

「うーん、それもそうね!」

「楽しみは後に取っておいた方がいいもんね!」

「……さすがです、アランさん」

「楽しみ……ねぇ」

「地獄って言わないっスか……」

「それ以上言うでない。ご婦人方の機嫌を損ねてはならん」

 

 耳打ちをし合うギンタたちの横で、共に調理の一部始終を見ていたバッボが警告をした。

 ちなみにバッボは色々あってギンタに取り憑くようになった幽霊で、普段はギンタが首からぶら下げているドッグタグに宿っている。

 今日は事情を知る者同士の集まりなので、ギンタがスポーツテストで投げた砲丸(これが目覚める原因になった)の中に入り、ポテトを潰すなどして準備に交ざっている。

 

「そんじゃ皆、作業再開! 六時目標でパーティだ!!」

「「おー!!」」

 

「___出来たぁ!」

「ジャスト一分前やな」

「ギンタン、乾杯の音頭!」

「オ、オレが?」

 

「え〜、じゃあ楽しい夜になることを祈って! かんぱーい!!」

「「かんぱーい!!」」

 

 しゅわっ! ごくごくごく……

 

「_ぷはぁっ! うっめー!!」

「雰囲気出るっスね!」

「何だ、このシャンパン本物じゃねぇのか」

「一応オレたち未成年ですから……」

 

 

 

「それじゃ、早速皆お待ちかねの……」

 

「プレゼント交換会でーす!!」

「「いえーい!!」」

「各自用意した物を紹介してって。まずはギンタンから!」

「おう! オレが選んだのは……」

 

「ジ●ダイの騎士愛用の、ラ●トセーバーだ!!」

 

 ビシャーン ゴゴーン

 

「おお! 光った!!」

「音がごっつリアルやわ!!」

「……子供が喜びそうな物だな……」

「でも意外と高かったりするんだよね、アレ」

 

 

「次の人は……」

「はい、私!」

「なんか随分と大きい袋っスね〜」

「私のプレゼントは、リ●ックマのぬいぐるみでーす!」

「ちょ、でっけぇ!!」

「可愛いでしょう?」

「た、確かに可愛らしいが、物凄い大きさじゃな……」

「部屋に置けるのかな……」

「……抱き枕に良さそうだな……」

「……え、君使うん?」

 

 

「オレ様が選んだのは、大吟醸・●だ」

「一升瓶!?」

「リ●ックマから一気に別世界やな」

「……誰に当たってもいい物にして下さいって、言ったじゃないですか」

「ほかに適当なもんが思い付かなかったんだよ」

「まあいいじゃないの、漫画やアニメの世界では普通に年齢無視してんだから」

「それを言うな」

「だいぎんじょう……」

「ん? 気になるのかの、スノウちゃん」

「ううん! 何でもない!」

 

 

「自分が選んだんは、新年に向けて獅子舞や!」

「獅子舞!?」

「クリスマスなのに……」

「季節感台無しっス……」

「まぁ、伝統ある日本の文化っちゃあ文化だけどな」

「アルちゃん、試しに着てみんか?」

「……これで町を練り歩けと?」

 

 

「これはなあに? お鍋?」

「それはワシが選んだ、家庭で焼き肉セットじゃ!!」

「クリスマスなのに……以下略」

「具材も付いてるし……しかも一人分だけ」

「気が利いてるのか、クリスマスを一人寂しく過ごせということなのか……」

「意味が分からねぇ……」

 

 

「オイラは自家製ブレンドのコーヒー豆っス!」

「……意外と普通だな」

「……何を期待してたんスか」

「つまんなーい、もっと面白いものにしてよー」

「ぷ、プレゼントって、ネタじゃなきゃいけないってことないっスよね!?」

「そこは空気読まんとなージャックー」

「そうそうー」

「何なんスか! 皆して!!」

 

 

「ねぇ、さっきからドロシーの袋から飛び出てる“アレ”が気になるんだけど……」

「ああ、あれ?」

「……アレって、どう見てもアレだよな」

「う、うん……」

「うふふ。私が選んだのは……」

 

 

「猫耳カチューシャ! 尻尾付き!」

「「やっぱり!!!」」

「罰ゲームの景品かよ!」

「探すの苦労したのよ〜」

「じゃあ探すなよ……」

「私的にはー、ギンタンかアルに付けて欲しいんだけどー」

「「それは嫌だ!!」」

「綺麗にハモったね」

「付け加えておくと、当たった人は強制撮影遵守権もあるから」

「プレゼントなのに強制なんか……」

「楽しみにしといてね♪」

「……ぜってー引くもんか」

「オレもだ」

 

「後は当たってからのお楽しみでいっか。それじゃあくじで決めるわよ〜皆一つ選んで」

「よし、これだ!」

「オイラはこいつっス!」

「私は……これ!」

「……」

「ベルはこれー」

「……よっと」

「何が出てくるんかな」

「ワシの分も引けギンタ!」

「手がねーと大変だな」

「うるさい!」

 

 

「お、自分はオッサンの酒か。当たりやな♪」

「これ、有名なお酒なんスか?」

「通の間では有名な名酒やで! 普通はなかなか手に入らんのや」

「へぇ〜全くわかんねー」

「ま、この場は未成年ばかりやし、後でゆっくり飲もかな」

「(じー……)」

「……スノウちゃん?」

「あ、ううん。何でもないよぉ!」

 

 

「オレ獅子舞ーでけぇー!」

「ちょっとギンタには大きいっスね、顔どころか体も見えないっス」

「ちょっと重てぇけど楽しいー!」

「お前の選んだ役に立たないプレゼントを、喜ぶ馬鹿で良かったな。ナナシ」

「そーやな〜……ってアルちゃん、何気に失礼なこと言うとりません?」

 

 

「わぁ、この時計可愛い!!」

「あ、それはオレの」

「アルヴィスの?」

「流石アルヴィス、センスがいいな」

「鍋セットにしようかとも思ったんだが、こっちにして良かったな」

「……何でお前も鍋……」

「有難うアルヴィス! 大切にするね!」

「ああ」

「いいなぁ〜アルのプレゼント貰えていいなぁ〜」

「ベルにもちゃんと買ってあるから」

「ほんと!? 有難うアル!」

「こらそこ、イチャつかない」

 

 

「よりによって、何でオレがネコ耳なんだ!!!」

「何だ、アランっスか〜」

「空気読まんとな〜そこは〜」

「オレの所為か!」

「……オレたちじゃなくて、本当に良かったな」

「ああ。……ご愁傷様です、アランさん」

「中年男の猫耳姿なんて、誰も喜ばんじゃろうに」

「いいじゃない、後々ゆするのに使えるわ」

「この魔女!!」

「悪態でも何でもないわよ、その台詞」

 

 

「で……このドロシーちゃんが何で一人焼き肉セットなのよ……」

「何故そう渋い顔をする! ワシがチョイスしたものじゃぞ、もっと喜ばんか!」

「ええい黙れヒゲ丸!」

「ええやん焼き肉! それとも体重が気になるんか?」

「死ね」

「ぐはっ!!」

「う、裏拳……」

「自業自得だ」

「ナナシさいってー」

 

 

「ワシが引いたこの包みは誰のじゃい?」

「それはベルが選んだ帽子だよ!」

「ほほぅ! どれどれ……うむ、ぴったりじゃ。あったかいわー」

「バッボはハゲだから寒いもんな」

「頭ツルツルっスもんね」

「ハゲではない! この艶やかな頭を何と心得る!」

「つ、つややかって……」

「どちらかというと錆び付いた……」

「ワシの頭の美しさがわからぬとは、了見の狭い家来共め! 覚悟せよ!」

「いて! 何すんだよバッボ!! がぶっ!」

「のわー!!」

「あ、獅子舞がバッボを噛んだ」

「〜〜〜!!! 紳士の頭を噛むとは何たる無礼!! ギンタ、そこになおれぃ!!」

「なんだよー! 獅子舞に噛まれると幸せになれんだぞー!」

「正確には無病息災だ、ギンタ」

「家来の分際でよくも!! こうしてやるわい!」

「いたぁー!! 何するっスかバッボ! それはオイラの頭っス!!」

「家来一号の不始末は家来二号の不始末! 全員で償うが良い!!」

「じゃあアルヴィスは何でいいんスか!」

「オレを巻き込むな」

「あやつを敵に回したら何があるかわからん!!」

「賢明な判断だがその台詞が気になる」

「アルをいじめたら私が許さないぞー!!」

「ジャック、これを使え!! 今こそ俺のプレゼントが役に立つ時だぜ!!」

「はっ!! そうっスね!」

「その為のもんなんかい、ラ●トセーバー……」

「フ●ースよ、我に力を!!」

「ああアカン! それ以上喋ったらアカン、ジャック! 版権的にまずいで!」

「オレたちがこうして話してることが既にまずいけどな」

「そうなの?」

「大人の事情でね」

「おらおらおら!!! 大人しく猫耳着けなさい!!」

「離せぇーー!!! 羽交い締めにすんじゃねぇスノウ!!」

「逃げちゃ駄目だよぉアラン〜!! えへへあははは!!!」

「誰だこいつに酒に飲ませたのは! ナナシてめぇか!!」

「いや自分注いでへんで……ってあー! 開けとるーー!!」

「うはははは!! これおいちいねー!!」

「ああ! 本物のシャンパンも開けとる!! ワイの大吟醸がー!!」

「ジュースの勢いで飲むんじゃねぇー!!」

「にゃはははははは!!!」

「痛ぁ−−−−−−−!!」

「ぬぉー帽子で前が見えんー! 前がー!」

 

「…………すっかり宴会だね」

「いつものことだろう。片付けは……明日だな」

「うん! 今日はゆっくりしよう、アル! はい、ケーキ!」

「ありがと、ベル」

 

 こうして少年と少女が傍観する中、聖夜とは程遠い騒がしい夜は更けていった。

 

 

 

「ぐすん……ぐすん……」

「ああ、ごめんエド!! 忘れてただけなんだよ! プレゼントの組み合わせ段階で気付いたとか、でも増やすの面倒でやめたとか、そんな理由じゃないんだよ!」

「大人の事情説明を、有り難うございます。姫様……」

 

 

 

END

 

 

 

 昨年のクリスマス小説製作時に、勢いで考え付いた現代パラレルです。

 今考えている設定では、私立中学に入学したギンタが、「ダンナの息子だから」と担任教師アランに学内組織「M・A・R」に強制加入させられ、何やかんやで楽しい日々を過ごす…というものです。ssにあるアルのメイド話と同じ舞台設定かもしれません。

 基本明るいスクールライフで、キャラに特に非現実的な設定はなく、ベルも普通の女の子だったりします。ただバッボだけはただのオヤジにするには些か無理と抵抗があったので、苦肉の策で「砲丸に宿った幽霊」になりました。

 ギンタがスポーツテストで投げた砲丸が校長室の窓を割り、そこにあった壷か何かに取り憑いて眠ってた前校長バッボが、壊れた拍子で砲丸に宿っちゃう…という設定です。フリーダムすぎますね(苦笑)

 この設定で話を書くかは未定ですが、気が向いたら更新してるかもしれません。

 

 途中からくだらない会話劇と化してますが、クリスマスの楽しい雰囲気を少しでも楽しんで頂けましたら幸いです。

 ご拝読下さり、有り難うございました!

  皆様のクリスマスが、素敵なものでありますよう…。

 

2010.12.2