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  いつかの誰か / スイカの日その2 / 呪いの力 / ねがいごと / 刻みつける /

  かくもささやかな祈り / Your wish  / 知られざる再会  / 大切だから  /  朝を待つ  /

  この手を伸ばせば / Everlasting /  旅のひとこまⅠ / 

 


 

 

 

『いつかの誰か』

 

 

 

 日の落ちた時刻。とんがり屋根の建物が並ぶカルデアの街を、細身の背に続いてアルヴィスは歩く。

 成長し幼さがすっかり消えた端正な横顔は、先を行く理知的な物言いの少年をじっと見つめていた。

 

「アルヴィスさんはこちらの屋敷でお休み下さい」

 

 ある家の前で、案内していた少年──インガは立ち止まった。

 

「中の者に事情は伝えております。なにか要り用でしたら、その者に声をかけて下さい」

「ありがとう。色々手配してもらってすまないな」

「いえ、お気になさらず。この国で貴方のことを知らない人はいませんから。……かつてメルヘヴンを救ったメルの英雄であられること、そしてドロシー様のご友人として、アルヴィスさんのことは心より尊敬しております」

 

 丁寧な口調を崩さず、インガは目を伏せて述べる。大人びた彼の様子にどこか既視感を感じながら、アルヴィスは眺める。

 

「……インガと言ったな」

「……はい」

「君は今夜、カイたちと一緒に?」

「いえ、もう帰ります。私には家がありますし、それに私は、彼らとの面識はほとんどありませんから」

「だがこれから一緒に旅をする仲間だろう? 同じ部屋で、親交を深めるのも良いんじゃないか?」

 

 年上らしいアルヴィスの提案に、インガは眉をしかめた。予想していたものの、宮殿でもかいま見た正直な反応にアルヴィスは苦笑した。

 

「すまない、余計なお世話だったな」

「いえ! ……すみません。ですが、私はまだ彼らを認めていません。あんな、まだARMもまともに使いこなせない奴なんて」

 

 いくらドロシー様や大ジジ様が認めたとはいえ……と小声で続けたあと、インガはじっと自分を見てくるアルヴィスから顔を背け、吐き捨てるように呟いた。

 

 

「……仲間なんて、足手まといでうるさいだけだ」

 

 

 こんな言い方では、まるで駄々をこねる子どものようだ。インガは自らの振る舞いを恥じる。

 だがそれを聞いたアルヴィスは、目を丸くした後、意外にも微笑んだ。

 

 

「君は昔のオレに似ているな」

 

 

 そうして返ってきた表情と言葉に、インガは「え?」と呆けた顔で聞き返す。

 アルヴィスは柔らかく問いを紡いだ。

 

 

「期待して、傷つくのは怖いか?」

「……そんなこと……」

 

 

 無いとは言えなかった。インガの生まれる前から、ウンヴェッターの名が背負う業。

 汚名をすすがねばと苦悩していた、両親をはじめとした一族の皆。気にしなければいいのに、などと軽々しく言う人々。

 自分ではどうしようもないもの。

 ジレンマ。

 己の気持ちを周囲に理解してもらえないことに、インガの心は幼い時から孤独を感じていたのだ。

 

 

「仲間というのは、案外悪くないぞ。……君にもわかる時が来るさ」

 

 

 人との関わりには、煩わしさしか感じない。わかりたくなんてない。

 だがそう思う一方で、アルヴィスの言葉がわかる時がくればいいと。そんな風に願う自分がいることにも、インガはひそかに気付いていた。

 

 

 

 

END

 

 

 

 

Ωのインガはアルヴィスポジションなので、それを意識して。本編より少し頑ななイメージです。

 

2017.3.25

 

 

 

 


 

 

 

『スイカの日 その2』

 

 

 

 メルヘヴンにもセミっているのかな。

 そんなとりとめのないことをグタグタと考えてしまうくらい、うだるように暑い日の午後。

 

「あっちー……」

「うむ……」

 

 修行休みのギンタはバッボと共に、レギンレイヴ城の庭の木陰でじんわり額に汗をかいていた。

 

「あー……キンキンに冷えたスイカが食いてー」

「すいか? なんじゃそれは」

「夏になる果物だよ。実が赤くて甘いやつで、冷やして食うとすごく美味いんだー。……あれ、スイカって果物……? 野菜……? どっちだっけ……」

「どっちでも良いが、こう暑くてはかなわんのぉ……」

「なージャック、おまえスイカの種とか持ってない?」

 

 同じく木陰で涼んでいたジャックに話を振るが、彼もまた疑問符を浮かべる。

 

「すいか? なんスかそれ」

「やっぱ知らねーか。えーと、こんなん」

 

 ギンタは近くの適当な枝を拾い、地面に絵を描いた。球体に縦方向の縞模様が入った図を見て、バッボが声を上げる。

 

「おお。第二家来の畑で食べたあの野菜か! あれは美味じゃったのぉ!」

「あー、似てるけどちょっと違う。あれはかぼちゃみたいにおかずにもなる味だったけど、これはオレの世界だとデザートだな」

「ふむ、果物っスか。……このシマシマはないけど、似た果物のだったら、オイラ種持ってるっスよ」

「マジで!?」

「うん」

「おお、美味いのか!?」

「甘くて美味しいっスよ」

「オレ、それ食いたい!」

「ワシもじゃ!」

「りょーかい! じゃ、ちょっとこの辺借りて植えてみるっスね!」 

 

 どこからか種を取り出し、ジャックはスコップを出現させ中庭の端に植える。

 テキパキと慣れた様子で、即席の小さな畑を整えた。

 

「夕方には実ると思うっス」

「すげー……。オレ、今世界で一番お前を尊敬してるよ!!」

「ワシもじゃ!!」

「……『今』って部分に、オイラは自分の限界を感じたっスよ……」

 

 感心した表情で見ていた二人は、心の底からと言った面持ちで目を輝かせる。

 その言葉に、ジャックは両目から汗とも涙ともつかぬ液体を流すのだった。

 

 

 

 で、夕方。

 宣言通り実った果実を、ギンタは大きく切り取って、バッボは皮ごとかじり付く。

 

「!! これスイカじゃなくてメロンの味だ!!」

「めろん? それも果物っスか?」

「そ! 見た目は全然ちがうんだけどな」

「へー」

「すげー! 見た目スイカでメロンすげー! うめー!」

「うむ。よくわからんが、美味いから許す!!」

「なんでアンタが偉そうなんスか……」

「ん? お前らなに食ってんだ?」

「スイカ! じゃねぇ、スイカメロン!」

「すいかめろん?」

「なぁにそれ、美味しいの?」

「てか結局どっちなん、それ?」

「まぁいいから、皆も食ってみろよ! いいよなジャック?」

「もちろんっス!」

 

 昼間はそれぞれ別の場所に散っていたほかのメンバーも交えて、皆でスイカ(?)に舌鼓を打つのだった。

 

 

 

 

おしまい。

 

 

 

 

 

 

特に意味のない話ですが、こういう何でもない会話も結構好きです。

前に書いたスイカssではメルヘヴンにもスイカがある設定でしたが、今回はない体で書きました。

なおナナシさんも異世界の人間なので、ギンタ以外でスイカとメロンの意味が一人だけわかってます。だからあの発言というこまかい設定。

 

2017.10.18

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

『呪いの力』

 

 

 

「なあ、アルヴィス。ダークネスARMって代償があるんだよな」

「ああ。オレが持っている物だと、どれも代償は『術者への激痛』だな」

「……それって、どのくらい痛いんだ?」

 

 ギンタの純粋な疑問にキョトンとした後、アルヴィスはフッと微笑を作る。俗に言う『人が悪い』笑みだ。

 

「……試してみるか?」

 

 挑発的な表情に、ギンタのプライドが刺激される。

 

「お、おう! やってやろうじゃん」

 

 なら、とアルヴィスは身に付けている指輪を外し、ギンタに手渡した。彼の愛用のARMのひとつ、スィーリングスカルだ。

 

「…………」

 

 さっそく人差し指にはめたギンタは、自身の手を眺めてみる。

 禍々しい髑髏の眼窩が己を見つめている。……ちょっと怖い。

 

「……どうした? 怖気ついたなら、無理にしなくてもいいぞ」

「そ、そんなことねぇよ! よーし、いくぞー」

 

 自分を奮い立たせるように一度深呼吸すると、ぐっと握りこぶしを作り魔力を高めた。

 

「……ダークネスARM、スィーリング、スカル!!」

 

 指に魔力が収束し、ARMが発動する、重いオーラが身体を覆う。

 その瞬間、全身に奔った強烈な衝撃に「いてぇ!!!!」とギンタは叫んでいた。

 

「な、何だこれ!!!」

 

 すぐさま魔力の供給を止め、はーはーと全身で呼吸をする。

 ひとしきり息をついた後、痛みの名残がある体をほぐすように、ギンタは腕をひらひらと振った。

 

「今のがダークネスの代償だ。その状態から攻撃を続けるには、代償に負けない精神力が必要になる」

 

 事も無げに言うアルヴィスだが、呪いと称される痛みを体感したばかりのギンタにそれは途方もないことのように思えた。

 

「まっすぐな魔力のお前には、不向きかもな」

「…………」

 

 自分の手にあるARMと、わずかに微笑するアルヴィスの顔を、ギンタは交互に見比べる。

 

「満足か?」

「あ、ああ。サンキュ」

 

 伸びてきたアルヴィスの手に、ギンタはリングを返した。アルヴィスは再び指にそれを通すと、話は終わったとばかりに去っていく。

 その背中を先ほど感じた違和感のまま、ギンタは何となく見つめる。

 それは彼の口調にどことなく、自嘲が含まれていたからだったのだが。

 ……服の袖から覗く彼の手の甲が、やけに目についた。

 

 

 

 

END

 

 

 

 

 

なぜアルヴィスがダークネス ARMばかり使うのか、その理由を考えていてできた話。

タトゥという呪いが進むにつれ、アルヴィスはダークネスARM向きの体質になった可能性もあるのかも…と。

 

 

2017.11.13

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 『ねがいごと』

 

 

 

「じゃあ、お願いね」

「うん!」

 

 ドロシーの言葉に大きく頷いたベルは、ドアの外に消える彼女を見送った。

 ルバンナの宿の部屋。ARMで眠らされたアルヴィスを眺める。

 眠っている時の彼は、起きている時よりずっと幼い表情で、あどけないままだ。

 その様子に、出逢ったときと変わらない愛しさを覚えながら、ベルは彼の顔の横に腰を下ろす。

 手のひらでそっと頬を撫でる。体温に触れると安心するのと同時に、何度目かの想いが胸を刺した。

 

 

 ────なぜ、この人なんだろう。

 

 

 誰よりも世界のことが好きで。

 人の何倍も、辛い思いをたくさんしてきたのに。

 普通にただ生きたいと望むことすら、彼には許されないのだろうか。

 

 

 ……それに“運命”という言葉を使うのだとしたら、あまりに悲しすぎる。

 

 

 

「………大丈夫だよ。アル」

 

 

 少し骨ばった頬から瞼へのラインを、ベルはなぞる。

 彼の何倍も小さな手で、全身で、ベルは彼に触れる。

 

 

「私たちが、絶対に助けるから。だから」

 

 

 どうか私の前から、いなくならないで。

 

 

 

END

 

 

 

 

「言えない想い」の続き。ベル視点。

アルヴィスをずっと見守ってきたベルにとっても、クラヴィーアはかなり辛い試練だったんだろうなぁと。

 

2017.12.1

 

 

 

 

 

 


 

 

 

『刻みつける』

 

 

 

 その日、ファントムは高揚した様子で戻ってきた。

 

「面白い子を見つけたよ、ペタ」

 

 ウォーゲームには参加せず、参謀としての職務に徹していたペタは、城に帰還した彼を意外な心地で出迎えた。

 彼がこんなに機嫌が良いというのは珍しい。

 クロスガードのリーダー・ダンナや、No.2の実力者であるアランらの戦いを観戦してる以外では、試合でも高揚した様子をあまり見せることはないこの男に、一体何があったというのか。

 

「今日たまたまクロスガードの奴らが歯向かってきたからさ、まとめて殺してあげたんだけど。そしたらやめろって言って、僕の前に立ったんだよ」

 

 ARMも持たないでね、とファントムは続けた。

 容赦なく殺戮を続ける我らが司令塔に、幼子は我慢できずに声を張り上げたのだろう。

 しかし端から見たら、無謀としか言いようがない。どう考えても立派な自殺行為だ。

 

「きれいな青い瞳の子でね。ずっと睨みつけてきて、僕がバッボを向けるまで怯えもしなかった。あんな子初めてさ。試合中後ろでわめいてる民衆たちより、よっぽど勇気があるね」

 

 心底楽しそうに笑みを浮かべると、ファントムは右腕をそっと持ち上げてみせた、

 その手の甲が、発動した強い魔力を残すように光っている。ペタは細い目をやや見開いた。

 

「……ゾンビタトゥを、授けられたのですか」

「うん。君以外で最初の人間さ」

 

 これは余程のことだ。まだ幼いその子供に、それほど高い潜在能力を見込んだのか。あるいは戯れか。

  いずれにしろ、普通ならば無下に切って捨てる命を、ファントムは生かしたのだ。それだけでも青天の霹靂に値するのに、あまつさえ不死の呪いまで与えたとは。

 

「名前はたしか……アルヴィス君だったかな」

 

 そして、その口が幼い少年の名前を綴るのを耳にして、いよいよペタは驚いた。

 ファントムという男は、他者の名前を呼ぶことが非常に少ない。

 彼がチェスの任務以外で名を呼ぶのは、自分が気に入った、あるいは認めた相手だけなのだ。そんな者は、この世では片手で数える程度にしか存在しない。

 

 

「いい名前だ。アルヴィス……アルヴィスかぁ」

 

 

 飴玉を口の中で転がすように、ファントムは少年の名前を何度か呟く。

 

 

「きっと、いい友達になれるだろうな」

 

 

 口元に弧を描いたまま、ファントムは自身の手の文様をもう片方の指でなぞった。

 気まぐれな彼の心を惹いた少年に対し、ペタも少なからず興味を覚えたのだった。

 

 

 

END

 

 

 

 

 

ファントムがアルヴィスと出会った日のこと。

刻んだものは、呪いと名前と運命。

この話では、アルヴィスはペタの後にタトゥを入れられたけど、修練の門の影響で早く回ってしまったという設定です。

 

2018.3.27

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

『かくもささやかな祈り』

 

 

 

 お釣りの硬貨をしまいながら、店の主人の女性は露天に広げたARMを眺める。今日の売上は上々だ。

 

「お、ここ結構いいの揃えてんじゃん」

 

 すると感心したような男の声がして、通りの向こうからカップルがやってきた。黒髪が上にツンツンと伸びた糸目の青年と、夕焼け色の髪をした女の子。

 

「ギド、好きなの選べ。買ってやるよ」

「え、でも……」

 

 女の子の方が、今日はアッシュに頼まれた物の買出しだし、と渋る。

 対して男はいいじゃん、ギドはいつも頑張ってんだからさ、と返し、でも……と繰り返される会話に、女主人は「リア充爆発しろ」と内心毒突く。

 しばらく迷ったあと、遠慮がちに商品を見ていた女の子がこれ、と一つを指差した。

 女性が売る品の中では、割とシンプルなデザインのリング。華美に着飾らない所が、彼女によく似合うように女性には思えた。

 

「それ、ARMじゃねぇよな?」

「うん。でもいいの」

「ふーん。わかった。いくらだ?」

「5000ピューターよ」

 

 男が札を出し、品物を彼女に差し出す。彼女は嬉しそうにはにかんで、リングを見つめ。

 

「……そうだ。さっきのお店で買い忘れてた物があったの。買ってくるね」

「え? じゃあオレっちも…」

「いいの。イアンはここで待ってて」

 

 そう言い置いて、ギドという名の女の子はぱたぱたと市場の方へ走っていく。彼女の横顔から、何となく理由は察せられた。

 ……いじらしいものだ。それから女性は、イアンと呼ばれた彼を見る。

 露天に置いた物とは別のARM入れの中から、ある品を取り出す。残された手持ち無沙汰な様子の彼に、女性は話しかけた。

 

「……これ。あの子が選んだリングと、おそろいのピアス」

「へ?」

「通信機能付き。一定の範囲なら、特定の相手に声を飛ばすことも出来るわ」

「……アンタ、」

「12000ピューター」

「…………」

 

 ぼったくり、と呟く声がしたが無視した。笑顔でお代をしっかりと受け取ると、苦々しい顔をしていた彼がふと表情を変える。

 

「……ありがとな」

 

 照れた様子で囁いて、彼女の去った方へ歩いていく青年の後ろ姿を、女性は見送る。

 

 

 新しい物を身に付けることなく、空いたままのピアスホール。

 それにかつて何がぶら下がっていたのかなんて、余計な詮索はしない。

 ただ今は、あの子と彼が、穏やかな日々を送れればいいと、そう願う。

 

 

 

END

 

 

 

 

 

戦後のイアンとギド、そしてそれを見守る通りすがりの人。

以前、ツイッターでフォロワーさんとメルヘヴン住人企画という遊びをしていて、書いたものを加筆修正したものです。

気に入っていたので、こんな形で再掲載させていただきます。

 

 

 

2018.10.6

 

 

 

 

 


 

 

 

『Your wish』

 

 

 

 

 「オレ、信じる。アルヴィスは絶対大丈夫だ!」

 

 

 彼のいなくなったテラスを後にし、部屋に戻ったギンタはそう言った。

 誰もが絶望的な未来を確信する中、それでも“大丈夫”という言葉を紡ぐ少年を、年若い信頼に足る相棒を、バッボは奇妙な心地で見上げた。

 

 

「……なぜそう思うのじゃ?」

 

 

 するとギンタは小さく微笑んだ。いつもの彼より少し大人びた表情を、バッボは不思議な思いで見つめる。

 

 

「だってあいつみたいな奴を、見捨てるはずがないって」

 

 

 自分の言ったことにギンタは「うん、そうだ」と頷く。確かめるように、繰り返し。

 

 

「それは誰がじゃ?」

 

 

 クラヴィーア王か? と聞くバッボに、ギンタは窓の外へと視線を移す。

 あのガラスの階段から眺めた景色と、大切な仲間を思いながら力強く答えた。

 

 

「この世界がさ!」

 

 

 希望に満ちた言葉は室内にとどまらず、まるで天空までも届くように大きく響いた。

 

 

 

 

END

 

 

 

 

 

 

やっぱり以前から思いついていたもの。

久々にクラヴィーアをプレイしたのと、新年に際し改めて原点を意識して。

 

 

2019.1.24

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 『知られざる再会』

 

 

 

 アルヴィスとベルがパヅタウン郊外でギンタたちと接触したあと、距離を取りつつ、彼らの旅を見守ること数日。

 二人が彼らの進路を先回りしていると、前方からしんと冷たい風が吹いてきた。

 

「ねぇアル、何だか寒くない?」

「そうだな……」

 

 ノースリーブの服を着たベルはぶるっと身を震わせる。アルヴィスは彼女に気遣いの声をかけるが、自身もまた肌寒さを覚えた。

 季節は春になったばかりで、もう日中は半袖で過ごしても平気だというのに。

 何か原因があるのか。ともかく風の吹く方向を目指していると、通常ではありえない景色が見えて来た。

 

「な……何これー!!」

 

 二人の目の前には、氷に覆われた古城があった。

 おそらく今よりもっと古い時代、この島を治めていた貴族の住処であったのだろうその城。それを中心に、吹雪が周辺の地形一帯を渦巻いていた。

 半袖から覗く腕を無意識に少し押さえつつ、周囲を観察すると、咲いたばかりの草花も凍っていた。話せる植物たちは、皆寒さに縮こまっている。

 つまり、これは異常事態だ。

 アルヴィスは感覚を研ぎ澄ませ、魔力を探る。城の中、魔力を持った人間が複数動いている。

 そのさらに奥、城の最上階付近か。微動だにしない一つの存在を感じた。

 目を閉じて、アルヴィスはその魔力の主を探る。

 

 

 ひどく悲しげで、冷たい、張り詰めた気配。

 閉じこもるような氷を形作る、ネイチャーARMの力。

 

 

「……この魔力は……」

「……知ってるの?」

 

 

 思わず呟いたアルヴィスに、ベルが問う。

 まさかと思い、もう一度意識を凝らす。アルヴィスの疑念が、確信に変わる。

 

 

(この魔力の主は……)

 

 

 幼い自分を取り囲んだ、沢山の雪だるま。

 

 

(六年前の、あの子の……!)

 

 

 花を差し出して笑った、少女。

 

 

 

 瞼を見開いたアルヴィスは、先走りそうな感情を落ち着かせながら、冷静に思考を巡らせる。

 ……風景の様子から見て、彼女が氷の中に閉じこもってから、おそらく数時間程度。

 ギンタたちがやってくるまでには、まだ間に合う。

 

 アルヴィスはすぐにでも駆け出したい気持ちを抑えた。小さく何度か深呼吸をする。

 ……見届けなければ。ギンタを、異界の住人を喚んだ人間として。

 城の中にいる人間が何者かはまだわからないが、これは彼の試練になりうるだろう。

 だから、今はまだダメだ。

 

 

 やがて獣人に連れられたギンタ一行が、氷の城へと入っていく。

 彼らの気配が奥ヘと移動したのを確認してから、アルヴィスは襟元で寒さをしのいでいたベルに言う。

 

「……行こう、ベル」

 

 雪が固めた冷たい道を、すばやく蹴って走り出す。

 

 

 

 ───待っていて、小さな姫君。

 

 

 

END

 

 

 

 

 

「Chain of feeling」設定のアルヴィスとスノウとベル。

以前も書いたかもしれませんが、私の中では、六年前からアルヴィスはスノウと面識があったので、何かと彼女を気にかけている…という設定です。

もしかしたら、アルヴィスはスノウの王子様になり得た存在なのかも。

 

2019.2.27

 

 

 

 

 


 

  

 

『大切だから』

 

 

 

 戦いは終わった。傷付いた世界は、少しずつ元に戻ろうとしている。

 だがアルヴィスは知っていた。この平和が仮初めのものであると。

 胸に刻まれた、消えない呪いが告げている。

 ファントムは───いつか復活する。

 

 

 アランさんは多分、レスターヴァに戻るのだろう。……ラストバトルの後、彼がハロウィンには呪いをかけられてからほとんど会わなかったけれど。

 クロスガードには、各地の街の復興がある。修行をつけてくれたガイラさんに、いつまでも頼っていられない。

 

 

 オレは、一人で生きていかなくてはいけない。

 

 

 

 

 

「どうして行っちゃうの!?」

 

 

 

 太陽の射し込む森の中。小さな声が響いた。

 大きな瞳に涙をいっぱいにためた小さな少女が、アルヴィスに詰め寄る。

 

 

「今よりもっと強くなるためさ。そのためには、もっと世界を回らなきゃいけないんだ」

「ならベルも一緒に行く!!」

「だめだ。ベルは今まで通りこの森で暮らすんだ」

「どうして!?」

「ベルを危険な目に合わせたくない」

「でも……!」

 

 

 話はまた最初に戻る。食い下がるベルに、アルヴィスはただすまなそうに謝罪の言葉を繰り返した。

 しばらく同じようなやり取りをした後、俯いたベルがポツリとたずねた。

 

 

「……ベルのこと、嫌いになっちゃったの?」

「……違うよ」

 

 

 アルヴィスは首を振り、彼女の問いを心から否定した。

 嫌いになるなんてことがあるものか。

 それでも彼女を置いていくのは、今の自分が、こんな小さな女の子を守る力も持っていないからだ。

 

 

 

「ベルを守れるぐらいに強くなったら、迎えに来るよ」

「……本当?」

「ああ」

「本当に本当?」

「ああ」

「絶対よ?」

「ああ、絶対だ」

 

 

 

 泣き顔で見上げる彼女に、アルヴィスは今の自分にできる、精一杯の笑顔で微笑んだ。

 

 

「……約束する」

 

 

 

 小指を差し出したアルヴィスに、ベルは自分の小さな指を絡める代わりに、全身で抱きついた。

 

 

 

 

 

END

 

 

 

六年前、クラヴィーアへの旅に出る前。

ベルはクラヴィーア探しの旅に同行している様子がなかったので、アニメ準拠の設定(六年前のウォーゲーム中に知り合った)で行くと一時的に別行動をしていたのかと思い、書いたもの。

 

 

 

2019.2.27

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

『朝を待つ』

 

 

 

 月が夜空の真ん中を通り過ぎている。水の音だけが、静かな森の中に響いていた。

 おっかなびっくり、ベルは岸辺に横たわる顔をそっと覗き込む。

 月の光が照らすそこにはまだ年端もいかない、あどけない表情で眠る人間の少年がいる。

 

 ……激しい修行のあとにもかかわらず、滝に打たれていた彼は、岸に上がり服を着込んだ途端に寝入ってしまった。

 当然だろう、あんな無茶な修行をして。

 呆れるような気持ちとともに、ベルはふしぎに思う。

 ……なぜ、そこまで必死になるんだろう。

 

 夜露がぽとりとそばで落ちた。今はまだ、深い眠りの中にいる幼い顔を見る。

 ……彼の瞳は、深い夜の色をしていたように見えたけれど。

 明るい太陽の下で見たら、どんな色をしているのだろう。

 

 早く見てみたい。ベルは彼が目覚める朝が、待ち遠しかった。

 

 

 

 

END

 

 

 

 

 

アニメルでベルとアルヴィスが初めて会った夜。Two of oneの数時間前のこと。

あのあとアルちゃん絶対寝落ちただろう…と思って書きました(笑)

2019.6.19

 

 

 

 

 

 


 

 

 

『この手を伸ばせば』

 

 

 

 

 祠に作られた魔法陣の中、アインガングから発動した光をギンタは見上げる。

 その横顔を見て、ふとドロシーは言い難い感傷に襲われた。

 

 

 出逢った頃は見なかった、彼の表情。

 何かを悟って、それでも前を見つめる瞳。

 あの時、彼がこんなにも頼れる子になると、いったい誰が想像しただろう?

 

 

「大人になっていくんだね、キミも……」

「え?」

 

 

 途端にくるりと振り返ったのは、あどけなさすら感じる幼い顔つきだ。

 それがまだ、誰かが隣に立つ余地を残しているようで。

 胸の切ない痛みが、そっと落ち着いた。

 

 

 

 ……きっと、この手が届く位置にいるのは、短い間だろうけれど。

 

 

 

 

「……ずっと一緒だよ、ギンタン」

 

 

 

 キミが大人になるまで、守ってあげるからね。

 

 

 

 

 

END

 

 

 

 

 

「アルヴィスの光」のワンシーンより。

ED「この手を伸ばせば」は、ドロシー→ギンタな曲だなぁと、初めて聞いた時から思っています。

 

2019.7.27

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

『Everlasting』

 

 

 久々の客人たちを送り出してから、城には常の物悲しいような空気が戻ってきていた。

 雲の下に隠れている硝子の床を歩きながら、長年仕えている執事がラスト・ウィッシュの入っていた箱を片付けに来る。

 玉座に腰掛けながら、少しばかり肩の力を抜いたクラヴィーアの王は、先ほどまで己の眼前に立っていた少年を思い出す。

 二つの時間軸に存在していた少年。

 その強い眼差し。

 悟ったような微笑。泣きじゃくった顔。

 彼が手にしたARMと、彼の願い。

 

「陛下……ひとつお尋ねしても宜しいですか?」

「……何だ?」

 

 空の箱を携えたまま、ふいに問うてきた執事に王は促す。

 執事の彼は、ほんのわずか逡巡するような間のあと、静かに口を開いた。

 

「陛下は何故、あのようなARMをお作りに?」

「あのような、というと?」

 

 動じることもなく、王が続きをさらに促すと、執事は皺の刻まれた目元を密かに歪ませながら続ける。

 そこには、先刻出迎えた少年への同情のような感情が浮かんでいた。

 

 

「陛下が彫金されたのが、その者に『相応しい』ARMであることは、僭越ながら私めが誰よりも理解しているつもりです。しかし奇跡を望んで、ようやくこの城へと辿り着いた者に対して、あまりに酷な結末ではないかと……」

 

 

 少年以外にも、これまでこの地へやってきた様々な者たちの顔が、執事の脳裏をよぎる。

 やっと、と万巻の想いで辿り着いた者もいれば、偶然迷い込んだ者もいた。

 けれど、幸せな顔をして出ていった者ばかりではない。

 なぜ、こんな。

 そんなことを呟きながら、地上へとつながる階段から、身を投げようとした者もいた。

 

 王の作るARMにより、願いはさまざまな形で具現化される。

 ゆえにこの城を訪れる者は、必ずしも欲しいものを手に入れるわけではない。

 それは随分と前より、執事もよく理解していること。

 だがあの少年と、少年の身を案じていた仲間たちを思うと、胸が締め付けられるような心地になり、つい考えてしまうのも事実であった。

 なぜ与えられるのは、その者が『望む』ものではなく、その者に『相応しい』ARMなのかと。

 

「……お主はそう思うか。バームベルク」

 

 臣下を怒るわけでも咎めるわけでもなく、王は泰然とした様子で相槌を打つ。

 

 

「どうか、お許しを。陛下の御心を疑うようなつもりでは、けしてございませぬ」

「良い、良い、そう畏まるな」

 

 

 身を小さくするようにして頭を下げた執事に、王は何度か頷いたのちに答えた。

 

 

「希望とは、それを望む者が必ずしも叶えるものではない。願いを為す者は、あのARMを手に入れた者ではない事もある」

 

 

 悲しいことかもしれないが、と付け足しながら王は言う。

 

 

「人には誰しも、生まれながらに運命と言うものがあるのだ」

 

 

『同じ希望ならば……希望の先に未来がある方がいい。そう思うからです』

 

 

 あの年齢で、その悲しい現実を悟ってしまった少年は、己よりも世界のために未来を選んだ。

 

 

「……そしてそれが幸福かどうかは、その者が決めることだ」

 

 

 そんな心優しい彼が、望んだ未来が訪れるように。

 そして彼にせめて、やさしい終わりが訪れるように。

 祈りにも似た念を抱きながら、クラヴィーア王は眼下に広がる大地へと思いを馳せた。

 

 

 

 

E N D

 

 

 

 

 

執事さんが「跡目はお主かと思っていた」とアルヴィスに漏らしていたことから、あの時点では、アルヴィスはそのまま死ぬ運命だったと、クラヴィーアサイドは捉えていたようにも取れますよね。

結局跡目にはフラット三姉妹が選ばれましたが、それによってアルヴィスが死の運命から外れたというわけではなく。

E Dでのフラット三姉妹の行為は、本来であればイレギュラーなものだったのではないか。

その解釈で書いてみたので、最後が「終わり」という少し悲しい表現になっています。

タイトルはEDでアルヴィスが口にしたワード「継ぐ」を意識して。

 

2021.7.6

 

 

 

 

 


 

 

 

 『旅のひとこまI』

 

 

 

 夕暮れ時の、勾配の急な石畳の坂道。赤い提灯のような明かりが灯る両脇には、いくつもの露天が立ち並んでいた。

 体格の良い中年の男のそばで、きょろきょろと物珍しそうな視線をせわしなく動かしていた少女が、一つの店で立ち止まる。

 屋台の脇にあるカゴにたくさん積まれた、掌サイズの大きなキノコ。それが次々と店主の女性の手によって、丸ごと網の上で焼かれていく。食欲をそそる匂いが辺りに立ち込める。

 

「これ、何ですか?」

「これはエイユウダケだよ。お嬢ちゃん、こうして焼いているのを見るのは初めてかい?」

「うん、初めて!!」

 

 店主が山積みになったキノコから、次のものを焼き始める。熱々の網に乗せた途端、キノコの水分が飛んでいき、シュワシュワ……とみるみるうちに縮んでいく。ぎゅっと繊維が詰まった身から、まるで肉の脂のように滴った水分が、網の下の炎に触れてジュジュッと音を立てる。

 香ばしく焼き上がったそれを持ち上げると、店主は片手で器用に細かくハサミで刻んでカップに入れ、何やら香辛料らしき粉を振りかける。

 ピックを突き刺し、一連の様子を見ていた少女に差し出した。

 

「はい、味見してごらん」

「え、でも……」

「子供が遠慮するんじゃないよ、ほら一口!」

 

 戸惑いつつカップを受け取った少女はしばらく迷っていたが、最後には促されるまま、思い切った様子でキノコをパクリと頬張った。

 

「美味しい!」

 

 途端に満面の笑みになる少女に、「そうだろう」と店主の女性も顔を綻ばす。

 

「アラン、これとっても美味しいよ!」

「おう、よかったな。悪りぃな、こいつは代金だ」

「いいってこれぐらい。見ての通り、今日はたくさんキノコが採れたからね。アンタの分もほら」

「あ〜、じゃあ〜……ついでに葉巻とかあるか?」

「あるよ。ちょっと待ちな」

 

 アランの質問に、店主は裏の机から品物を探し始める。

 まだポケットの中には手持ちがあるが、貰いっぱなしでは申し訳ない。少しばかりだが、厚意の礼になれば良い。

 傍らに立つ少女は、頭のリボンを嬉しそうに揺らしながら料理を頬張っている

 

「そんなに美味ぇのか?」

「うん! ほら、あーん」

 

 アランの手元にも同じ物があるにも関わらず、少女は背伸びをして無邪気に焼きキノコを差し出してくる。

 照れ臭くなりながらも、アランは屈んで素直にそれにかぶり付いた。

 

「……お、ホントだ。うめぇ」

「ね?」

 

 我が意を得たとばかりに笑みを深めると、少女は店主にお礼を言う。

 店主から葉巻を受け取ったアランは、代金を手渡しながら、隣の少女をこっそりと見やる。

 

 

 ……一つの場所に留まることもできず、目立つことも避けなければならない逃亡生活だが。

 それでも、こうして彼女が笑顔を浮かべてくれるのが、救いであったりする。

 自分と、そして己の中にいるもう一人の男の。

 だからつい、甘いと思いつつも。こういった賑やかな場では、彼女の好きにさせたくなってしまう。

 

「あっちにも面白そうな店がある! アラン、見てきていい?」

「ああ。あんま遠くに行くなよ、スノウ」

「はーい!」

 

 石畳の道を降りていく少女の小柄な背を、男は見守る。

 危なくなる前に、すぐに駆けつけられる位置を取りつつ。

 

 

 旅をしている時の、ひとときの安らぎ。

 

 

 

 

E N D

 

 

 

 

 

アランとスノウ(とエド)の旅。

タイトルにⅠとありますが、続くは分かりません。某GARNETの曲「創世記Ⅰ」と同じようなものと考えてください(多分続かない)

キノコの屋台は、台湾のエリンギの屋台のイメージです。エイユウダケの名前は、ゲーム版クラヴィーアのイベントから。

 

2021.7.21