一文字お題 ss

 

 

 


 

 

 

 

 初めはお前のことが嫌いだった。

 嫌いというか、出会いの印象が最悪だったから、いけ好かねー奴! とか思ってた。

 けど。

 

 

『メルへヴンが好きか?』

 

 

 お前もオレと同じなんだと知ったら、お前のことが少し理解できてきた。

 お前のことも、好きになった。

 

 

 メルヘンの世界が好きだから、オレはここに来て。

 このメルへヴンが好きになって。

 メルへヴンが好きな、お前に会った。

 

 

 ……「好き」って、世界が繋がる魔法だな。

 

 

 

 

 

 初めはお前のことが好きじゃなかった。

 オレは多分、前に来た人と同じ姿を無意識に期待してたから。

 背丈も、力も違うお前の姿に、失望していたんだ。

 けど。

 

 

『メルへヴンが好きか?』

 

 

 見知らぬ世界を輝く目で見るお前は、オレと同じで。

 この世界を守るために、がむしゃらに突き進んでいく姿に共感する自分もいた。

 今なら、お前の前に扉が開いた理由もわかる。

 

 

『メルへヴンが好きか?』

『当たり前だ!!』

 

 

 

 その問いの答えも、聞いた理由も、今ならわかるよ。

 

 

 

1.好 繋がる

 

 

 

END

 

 

 

“好き”、それは単純だけど、何かが変わる魔法の言葉。

 

2011.5.14

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 月と星の優しい色に染まった城のとある一角で、少女に親しみのこもった声がかけられる。

 

「姫様、こちらにおられましたか。どこに行かれたかと思いました」

 

 家臣の名を呼ぶ代わりに、少女は微笑む。獣人の家臣はどうしてパーティを抜け出したなどといった追求はせず、使えるべき主君が言葉を発するのを見守る。

 

「帰ってきたんだね………本当に…」

「はい。十四年間、姫様のお育ちになったお城です」

「懐かしいな………お城を出てから、まだ一年も経ってないはずなのにね」

 

 城の空気を噛みしめるように目を伏せた少女に、家臣も微笑む。しかし少し間を置いて、罪を白状するように声を絞り出した。

 

 

「……正直私は……」

 

 

 少女が柔らかな水色の瞳に、家臣を映す。

 

 

「この城を出た時は、戻れる日が来るとは思っていませんでした」

「………」

「しかしこうしてまた姫様の成長を、ここで見守る事が出来るようになったことを、本当に嬉しく思っております」

「エド………」

 

 

 感慨深げに頬を緩める家臣に、少女は一度瞼を閉じて、心からの礼を告げる。

 

 

「………エド、ありがとう。エドがいなきゃ、私はきっとここにいなかったよ」

「姫様………」

「これからも、私を支えてね」

「勿論です! このエドワード、一生姫様に御使え致します!」

 

 

 当然だと声を張り上げた家臣に、少女はもう一度微笑み、彼の手を握ってパーティ会場へと促した。

 

 

 

3.隣 この先も

 

 

 

END

 

 

 

最初に思い付いたのはお馴染みアルとベルだったのですが、そう言えばこの二人も長い付き合いだなと気付き書いてみました。

本編だとあまり注目されないコンビですが、仲良しぶりが描けていたら嬉しいです。

 

2011.7.27

 

 

 

 

 


 

 

 

「ねぇ、もし違う人生を生きられるとしたら、スノウはそれを選ぶ?」

 

 

 そんな問いをベルが投げかけたのは、珍しく彼女が好きな彼といない時だった。

 

 

「……いきなりどうしたの?」

 

 

 きょとんと目をぱちくりした後、スノウが柔らかい声音で訊ねると、ベルはきまりが悪そうに視線を彷徨わせる。

 

 

「……アルもだけど、スノウもドロシーも皆、悲しい事をいっぱい背負ってるから」

 

 

 聞いてよかったものかどうかと、どことなく思いあぐねた様子のベルは、遠慮がちに言葉を足した。

 

 

「そんな事がない人生があるなら、やっぱりそっちの方がいいのかなって」

「悲しい事がない人生……」

 

 

 一瞬、スノウはあるはずの無い未来を夢想した。

 

 

「……でもそれって、今の自分から見てでしょ?」

 

 

 しかしすぐに、問いかけをした彼女に振り向く。

 

 

「幸せって、人によって違うじゃない? その人生を生きている“私”だったら、別の幸せを望んでるかもしれないし、もしかしたら、今の私の方を羨ましく思ってるかもしれない」

 

 

「それに、今の私が“幸せ”だと思っている事は、失くしたくないよ」

 

 

 屈託なく笑うスノウに、ベルは僅かに驚いた表情をしたが、程なく笑顔を浮かべる。

 

 

「だから、そっちの世界にある幸せは」

 

 

 その変化を感じ取ったスノウは、笑みを深め、

 

 

 

「そっちの世界の、私に譲るよ」

 

 

 

 上を見上げ、青空の下に足を踏み出した。

 

 

 

 

5.幸 my way

 

 

 

END

 

 

 

このお題シリーズでは、「これまであまり書いた事の無いペア」を書くのが密かな目標です。

(といっても、1で既にいくつかあるギンタとアルの組み合わせになりましたが)

ということでスノウとベルです。内容が若干MARⅠ「それでもまた」と被っているので、アルヴィス以外のキャラに出てもらいました。

最後のスノウの台詞は勿論小雪のことも意識したものですが、あまり彼女達にお互いに対するコンプレックスみたいなものを抱かせたくなかったので、あえて小雪の存在の描写は避けました。

 

2011.10.5

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 開けた平原で、ジャックは周囲を見渡す。

 

「ここなら問題ないっスね。よーし……」

 

 手の平で地面を軽く掘り、土の上に種を散らした。

 自分自身を奮い立たせるように頷き、左腕に手をかける。魔力がブレスレットに行き渡り、スコップへと形を為した。

 

「……育て!! アースビーンズ!!!」

 

 大地のエネルギーを受け、種の固い殻が割れて芽が出た。蔓は本来の何倍もの大きさに膨れ上がり、空に体を伸ばしていく。

 

「いけーーーーっ!!!」

 

 ぐんぐん大きくなる蔓の一番上に生えた葉に乗り、近付いてくる空に向かってジャックは声を上げた。

 が。

 

 

「お?」

 

 

 ぴたっと擬音が付きそうな勢いで、蔓の成長が急激に止まる。

 

 

「おおお?」

 

 

 あまりにも急ぎ足で成長した植物は、自らの重さに耐え切れず身をぐらぐらと揺らした。

 

 

「あぎゃーーーーーーー!!」

 

 

 しまった、と思う間もなく、空中に放り出されたジャックは地上へ真っ逆さまに落ちていった。

 

 

「い、いててて……」

 

 何の受け身も取れなかったが、根元で茂っていた葉や蔓がクッションになり、幸い大した怪我はせずに済んだ。

 衝撃が減ったとはいえ、したたかに打ち付けた腰をジャックがさすっていると、ふと小さな、楽しそうな笑い声が聞こえた。

     

「……ふふっ……」

 

「ふふっ……あはは……」

「だ、誰っスか!?」

 

 誰もいないはずの野原を見回すと、少し離れた木立から、こらえ切れぬ笑いを口元に乗せた少年が現れた。

 

「悪い、ちょっと面白かったから」

「……アルヴィス!」

 

 思いがけない人物にジャックは目を丸くするが、今の失敗を見られたことに決まり悪そうな顔になって頭を掻く。

 

「……なんか、恰好悪いところ見られちゃったっスね」

「気にするな。いつものお前とそう変わらない」

 

 さり気なく酷い言葉を言いつつ、尚も楽しそうに笑いを浮かべながら、アルヴィスはジャックの近くまでやってきた。揺れも治まり、しっかりと根を下ろし安定した蔓に指を滑らせる。

 

「アースビーンズの練習……ではないな。何をしてたんだ?」

 

 皮肉も嫌みもなく、地面に転がったままのジャックに尋ねたアルヴィスに、ジャックはいささか虚を衝かれた心地になった。

 今前にいる彼は、いつもの彼と少し違う。

 何て言うのだろうか………雰囲気が柔らかい。

 

「……オイラの夢は、天まで届く蔓を育てることなんス!」

「……天まで?」

「そう!」

 

 ズボンに付いた土埃を払って、ジャックは空の真ん中ぐらいにまで伸びた蔓を見上げた。

 

「オイラは田舎者だから、パヅリカ以外の場所をほとんど知らないっス。ギンタと旅をするまで、島の外に出たこともなかった。だからいつかこの広い世界を、オイラの育てた植物の上から一望してみたいんス!」

 

 

 胸を張って語るが、静かに自分を見るアルヴィスの様子に恥ずかしくなる。

 

 

「……なんて、ガキっぽいっスよね」

「いや」

 

 

「……素敵な夢だと思う」

 

 

 柔らかな調子で否定し、アルヴィスは眉目秀麗な顔に似合う、綺麗な表情で笑った。

 その反応にジャックは暫くぽかんと口を開けていたが、やがて「……へへ」と嬉しそうに鼻を擦(こす)る。

 

「アルヴィスの夢は、何スか?」

「オレの?」

 

 アルヴィスはきょとんとしてから、天に向かってそびえ立つ蔓を仰いだ。

 

 

「……そうだな……」

 

 

 

 

「この世界を、平和にして……」

 

 

 

 

「その平和になった世界を、見ることかな」

 

 

 

 

4.笑 素顔の日

 

 

 

END

 

 

 

本編であまり会話のない二人ですが、意外と相性は良さそうだなと思いながら書きました。

予想以上にアルが素直な反応をしてくれて、ジャックだけでなく書いている本人もびっくりです(笑)

 

2012.2.9

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 ノックもなおざりに、ギンタは室内へ進入する。

 

「おーい、アルヴィスー。起きてるかー?」

 

 遠慮せずドアを開けると、朝日を受け明るい色になったカーテンのすぐ傍のベッドで、幸せそうに眠るアルヴィスの姿がある。

 ベルは枕元に置かれた籠の中でタオルにくるまり、横になっている。

 珍しく寝坊した彼を起こすべく、ギンタは布団の上から容赦なく彼を揺らす。

 

「アルヴィスー、おっきろー」

「…………」

「ベル、ベル。もう朝だよ、起きて」

「ん? うーん……」

 

 ギンタが何回か声をかけている間に、スノウはベルの体を指で優しく揺すって起こした。

 寝ぼけ眼をこするベルが覚醒に向かう横で、肝心のアルヴィスはまだ寝ている。

 

「ふわぁ……おはよ、スノウ、ギンタ」

「おはよう、ベル」

「おう。おいアルヴィス、お前もいい加減起きろよ」

「…………」

 

 返事はない。相も変わらず気持ち良さそうに寝息を立てている。

 彼がここまで深く眠り込んでいるというのは、実に珍しい状況だ。

 

「……起きないね」

「アルー? 朝だよー?」

「…………」

「ったく、まだ起きねぇのかよ…………落書きでもするか?」

「ダメだよ悪戯は。それにそんな事したら、流石に起きちゃうと思うけど」

「あ、だったら尚更良いじゃん! えーとペンはペンは……」

「もう……」

 

 呆れるスノウを余所に、ギンタは部屋を調べ始める。だが彼の荷物らしき包みを持とうとしたところで、掠れかかった声に呼び止められた。

 

「……やめろ……ギンタ……」

「え?」

「アルヴィス? 起きたの?」

 

 スノウが聞くが、アルヴィスはよくわからない呻きで答えた。瞼は閉じているのでまだ眠ったままらしい。

 夢うつつでも会話を拾っていたのだろうか。近くまで戻ってきたギンタと一緒に、スノウとベルは彼の挙動を待つ。

 

 

「それは……オレのケーキだ……」

 

 

 そしてその言葉から想像できる夢の中身に、三人は思わず笑みを零した。

 

 

 

2.楽 What kind of your dream?

 

 

 

END

 

 

 

一番ネタに悩んだお題。ペアじゃなくなってしまいました…。

アルヴィスが甘い物好きというのは公式だと信じてます。

 

2012.7.16

 

 

 

 

 


 

 

*お題を終えての後書き*

昨年の4月頃から初めたお題です。

お題を始めた当時、東日本大震災が起きたばかりで、世の中が完全に混迷している状態でした。他のサイト様も更新を止められたり、被害の少ない地域とはいえ、私自身も精神的に参っている時期でした。

それでも話を書くならば、拍手小説だけでも明るいものを書こうと、お題サイト様をめぐり幸せなイメージが浮かぶこれらのお題をお借りしました。

 

これまで宝石シリーズのように自分で「お題」と称して話を書いたことはありましたが、他サイト様からお借りするのは初めてでした。そういう意味では、今回の試みは一種の挑戦だったかもしれません。

 

改めて読み返してみると、スノウの出番が予想以上に多くなっていますね。あとやっぱりアルヴィスも。

当サイトでは数が少ない、ジャックやアラン等男性陣同士の会話も考えていましたが、また今後の課題にします。

 

拍手小説は2~3カ月ペースで変えることを目標にしています。

しかし私事が忙しかったりでなかなか変えられずにいたので、お題自体何の為に始めたものかすっかり忘れてたりしてました(苦笑)

そういった訳で勝手な思い入れもある作品達ですが、少しでも明るい気持ちになれたり、楽しんで頂けていたら幸いです。

最後までご拝読下さり、有難うございました!

 

2012.7.16