ssまとめ2 31~60

 

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  途切れない喜び / 心当たり / 目を隠しながらでキス / 決行前 / 「だいじょうぶだよ」 /

  共犯者の笑み / 対格差 / 君の匂い / レオクラジオっぽいもの / ポッキーの日in2015 /

  いつかの夢 / 伝えたかったこと / 安らぎ / 某国行き船にて / つかまえた本音の端っこ /

  見せず聞かせず、最後に口を塞いでしまおう / 面倒な恋ならば粉々にしてしまえ / 報われないものを知っているんだ / つたえたいメロディがあるよ / 特殊な性癖? /

  壊すのは簡単 / 3月9日 / 変われる幸せ / 結局のところ / 君なしで生きていけたらいいのか /

  四月一日のこと / 二月・パドキアの空港にて / わかってる。 / 囁かれた名前 / 囁かれた名前② /

 


 

 

 

『途切れない喜び』

 

 

 お兄ちゃんお兄ちゃんと呼ばれ、何かと思えば後ろからタックル。

 強かに体を打ち付けながら目を開けると、どアップになった妹の満面の笑顔。

 

「お誕生日おめでとう!」

 

 頭を撫でて礼を言う前に、次々にメールの着信音が鳴る。妹が幸せそうに相好を崩す。

 

「皆がお兄ちゃんのことお祝いしてるね!」

 

 それにオレも、笑顔。

 

 

 

END

 

 

キルアお誕生日おめでとう!アルカと二人旅設定です。

 

 

 

 

 


 

 

 

『心当たり』

 

 

 クラピカの携帯を見せてもらった。

 オレ達のとは違うシンプルな形状と機能。仕事用だもんなーと思いながら、何気なく着信履歴を見る。

 

「あの男」

 

 …あの男? 誰だろう。

 こんなに何件も。てか、履歴ほぼこの人で埋まってない?

 

 ……こんなにクラピカにかける相手って、一人しか思い付かないけど……

 

 

 

END

 

 

二人へのお題ったー(これって聞いてもいいのかな)より。考えるのを止めたゴン君。

 

 

 

 

 


 

 

 

 唇を離すと、余韻を残すような緋色をした瞳。

 

「気持ち良かったか?」

「……お前ばかり、狡い」

「何で?」

「私の気持ちは瞳の色でわかるのだろう。それなのに毎回聞いてくる」

 

 拗ねた表情がそっぽを向く。

 

「目は口ほどにってな。まぁ確かにフェアじゃないと言えばそうだな」

 

 じゃあ今度は、と望み通り瞳を手で塞ぎ、もう一度。

 

 先程よりも少し長めの、濃厚なキスをしかける。

 離れようと小さく抵抗するが、唇は何より正直だ。

 触れた舌から熱が伝わってくる。

 

「……感じてただろ、お前」

 

 目なんか見なくたって、お前の感情なんか筒抜けなんだよ。

 そう笑ってみせると、やはりお前はずるい、と真っ赤に染まった頬で呟いた。

 

 

 

END

 

 

Twitterで回ってきたキスのシチュエーションお題から「13.目を隠しながら」。

 

 

 

 

 


 

 

 

『決行前』

 

 遠くで雷鳴が聞こえる。止むことのない雨の音。

 新聞を片手にロビーで機を窺う顔と、船で決闘を放棄して駆け出した時の横顔が重なる。

 折れた柱、落ちた影。躊躇わずに伸ばした腕。

 

 ……あの時もお前は、自分以外の誰かの為に必死だったな。

 その優しさがこわくて、突き放してばかりいたけれど。今は、大切な人をちゃんと大事にしたい。

 

 ……その方法を探している途中の私は、お前の姿に学んでばかりだ。

 

 

 

END

 

 

ベーチタクルホテルにて。

 

 

 

 

 


 

 

 

「嘘吐き」と、少し咎める様に彼が言った。

 

「……本当なのだが」

「お前の大丈夫は当てにならねぇ」

「そんなことはない」

「いーやあるね。自分の顔見てから言え」

 

 全く、と頭の上で呆れた顔を作る彼を見上げる。彼の瞳の中に、今なお微笑んでる自分が映っていた。

 ……本当に大丈夫だよ。いつも君が掬い上げてくれるから。

 私の心が折れる前に、気付いてくれるから。

 本音は胸の中だけで呟き、彼の十分すぎる優しさに、甘えることにする。

 

 

 

END

 

 

レオクラへのお題:「だいじょうぶだよ」より。

実は「押し倒してる」というシチュエーションのつもりだったり…。

 

 

 

 

 


 

 

 

「——上手くいった?」

「ばっちし。二人とも、何も知らずに待ち合わせ場所に向かってる」

「忙しいからって、わざわざ離れるようなことしないで、気軽に連絡すればいいのにね」

「顔見たらどう話したらいいかわかんないからじゃね? あいつら、結構不器用だし」

「なのに会わせるんだ?」

「荒療治ってやつだよ」

 

 二人が会うまで、あと二十分。

 

 

 

END

 

 

140文字お題『共犯者の笑み』より。何だかんだでキルアは世話焼きな気がします。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

『体格差』

 

 

 初めの印象は、正直マイナスのものしか無かった。

 品がない。知性もない。

 その中に「バカでかい」も、あった気がする。

 過ごす時間が長くなるうち、最初のは誤解だとわかってきたけれど、体格についてはいまだ変わらないまま。

 でも別にいいのだ。

 彼に抱き締められること。背中に腕を回しても足りないこと。その全てが気に入ってるから。

 

 

 

END

 

 

べた惚れピカさん。すっぽり納まるサイズっていいですよねぇ…。

 

 

 

 

 


 

 

 

『君の匂い』

 

 

 じゃれるように髪に手を伸ばしていた彼が「ん?」と言った。

 

「お前何か香水つけてたっけ?」

「いや、君ではないし、特には……何故だ?」

「何かいい匂いするなーって」

「……ちょ、やめろ、くすぐったい」

「何でだろ、お前フェロモンでも出してんじゃねぇの? クルタホルモンみてーな」

「知らん! 大体その二つは別の物質だ」

「…あれ、匂い薄れちまった」

「君がこんなに近くにいるからだろう。全く…」

 

 

 

END

 

 

じゃれ合いレオクラ。好きな異性の匂いは、本能的にいい匂いと感じるらしいですね。運命の相手にだけ作用する専用フェロモン。

 

 

 

 

 


 

 

 

『レオクラジオっぽいもの』

 

 

「何かラジオだとクラピカ、いつも楽しそうだよね」

「ん? 何を言ってるんだゴン。私は毎回レオリオの奴に振り回されてばかりで、むしろ苦労することの方が多いぞ」

「そう?」

「ああ。しかしこれも仕事だからな……やるならしっかりやらねばなるまい。だから別に楽しいなんてそんな……」

「……その割にはノリノリだよな」

「うん」

 

 

「そうか……そんなにオレと組むのがイヤだったのか……」

「レオリオ?」

「悪かったな。次から別の奴と組むんだ。今まで迷惑かけたな」

「ま、待つんだレオリオ! どこへ行く!」

「オレはせめてラジオの中だけでも、お前に楽しい時間を過ごして欲しかったんだ。じゃあな……幸せになれよ」

「わ……私は何も楽しくないなんて言っていない!」

「え……?」

「それになんだ、お前のようなだらしのない、遅刻ばかりする人間とコンビを組めるのは、忍耐のあるこの私くらいしかいないだろう。だから戻ってこい。帰ってこい、レオリオ……!」

「クラピカ……!」

 

「……ん? 今さり気なく貶められた気がすんだが」

「細かいことは気にするな」

 

 

END

 

 

twitterで悪ノリしたもの。レオクラジオ独特のあの空気を目指しました。あの大仰なカンジ(笑)

 

 

 

 


 

 

 

『ポッキーの日in2015』

 

 

「おいクラピカ、今日はポッキーの日だから……」

「断る」

「まだ何も言ってねーだろーが!!」

「私が学習しないとでも思ったか? 昨年の二の舞は受けんぞ」

「畜生~折角買ってきたのによ……」

「……しかし昨年から負けたままというのも面白くない。そこでだ。レオリオ、君に再戦を申し込む」

「再戦? ……お前、本当はただやりたいだけじゃないのか?」

「フッ、この私が何の策もなく勝負を持ちかけるとでも?」

「……おーし、いいぜ。じゃあ去年に引き続き、ポッキーゲームやろうじゃねぇか」

 

 ガサガサ…ゴソッ

 

「準備完了。チョコの方はお前が食っていいぞ」

「ん……そうか。では行くぞ」

「おう」

 

 ぱくっ……

 ガリッ!!!

 

 

「(むぐむぐ)どうだ! レオリオ!」

「お、おま、いっぺんに全部食いやがって! それはルール違反じゃねぇか!?」

「一度に口に含む量の制限は無いだろう! 私の勝ちだ!」

「ずっけぇ! もう一回! もう一回だ!!」

「勝負は決まっただろう。終わりだ」

「あと一回! 一回だけでいい!」

「……なら、これで最後だぞ」

「よっしゃ、望むところだ!!」

 

 

「じゃ、行くぞ、クラピカ」

「ああ」

 

 

 ぱくっ……

 ガガリッ!!!

 

「……っ!」

「(もぐもぐ)どーだ!? まさか同じ手に出るとは思わなかっただろ?」

「……………」

「? ……(ごくん)どうした? 口元押さえて」

「……今、おまえの、唇が」

「……あ」

 

 

 

終幕。

 

 

この後クラピカに逃げられ、何とかキスの感触を思い出そうとするレオリオさん。

 

 

 

 


 

 

 

 

『いつかの夢』

 

 

 『いつか』という、夢を見た。

 

 

 それが現実になればと、かつて願った。

 望みは引き寄せるものだと、自らの力で手に入るものだと信じていた。

 でも今なら少し思う。叶わないから夢なのではないか、と。

 だから夢はきっと、眠りの時にしか見られないのだ。

 お前に会えることなんて、もうないのだから。

 

 

 ……そう、ずっと、思っていた。

 

 

 けれど。君を見ていると、夢の続きがあるのだと思えてくる。

 叶うものかもしれないと信じてみたくなる。『いつか』を信じてみたくなる。

 だから、今の願いは、君の夢が叶うように。そうしたら、きっと私の夢も終わっていないと、そう思えるから。

 

 

 …………今、そう思うのは、当たり前のように『いつか』のことを話す君と。

 

 ……未来のことを話す君と、長くいた所為なんだろう。

 

 

 

END

 

 

 

お前はパイロ、君はレオリオです。

 

初出:2015.1.8

加筆・サイト掲載:2015.12.17

 

 

 

 

 


 

 

 

『伝えたかったこと』

 

 

 近所の散歩道で、並んで歩いていたら、君がおもむろに呟いた。

 誰に? 何を? と尋ねる。

 すると懐かしむ目をしながら「親友に」と言った。

 

「夢のことさ。今これだけ近付いたんだぞって」

 

 誇らし気に語りつつも、サングラスの奥に微かに悲しい色が見て取れた。

 ……会えなくても伝わっているはずだ。君がその夢を目指した切欠なのだから、彼も見守ってくれているはずだ。

 サンキュ、と囁いた君に、今日は自分から指を絡めた。

 

 

 

END

 

 

「〇〇の切ないシチュエーション」の『歩き慣れた道で 優しい声音で あなたは 「伝えたかったなぁ…」 と言いました。』から。同居設定(多分)。 

 

2015.12.17

 

 

 

 

 


 

 

 

『安らぎ』

 

 

 背中に大地を感じて、花の香りに包まれながら、ただ世界に身を預ける。

 長らく感じていなかった心地良い安らぎ。

 全てと一体となる感覚。

 太陽の温もりに微睡む中、柔らかい笛の音が暫く聞こえていた。

 鼓膜を揺らす優しいメロディ。

 やがて音色が世界に溶けていき、さくりと茂みを踏む足音を立てて近付いてきた彼女が、私を覗き込んで笑った。

 

「今のあなた、とても素敵な心音(おと)をしているわ」

 

 それにそっと、笑い返す。

 

 

 

END

 

 

 

フジ版のパズルイラストを見ながら即興で書いたもの。

草原に寝ているクラピカがセンリツさん視点っぽいとフォロワーさんと話題になったので、彼女と一緒に。

 

初出:2015.5.30

加筆・掲載:2015.12.18

 

 

 

 

 


 

 

 

『某国行き船上にて』

 

 

「エルライス王国かー、全然聞いたことねぇ国だな」

「何かおいしそうな名前だよね!」

「はぁ? どこがだよ?」

「え? だってオムライスに似てない?」

「……お前は能天気でいいよな」

「あ~早く港に着かないかな~」

 

 

~別の場所にて~

 

「エルライス王国って、何か美味そうな名前だな」

「相変わらず君は単純だな……」

「何だと?」

「大方、名前からオムライスでも連想したんだろう?」

「違うな。オレが考えたのは『カレーライス』だ」

「自慢げに言う程のことでもないな…」

「あ~なんか食いたくなってきたな! メシはまだか?」

「さっき食べたばかりだろう……」

 

 

END

 

 

 

ミュージカル一作目の舞台・エルライス王国行きの船にて。前半はキルア・ゴン、後半はレオリオ・クラピカ組。

ゴンとレオリオって結構似てますよね(笑)

 

初出:2014.6.27

加筆・掲載:2015.12.18

 

 

 

 

 

 


 

 

 

『つかまえた本音の端っこ』

 

 

 

 顔を合わせる度に、いくつも向けられる罵りの言葉。

 オレが何かしたか? と聞くと、そっぽを向くアイツ。

 会議の後に誘われた席で、酔った勢いで愚痴る。すると暫くしてから牛柄の服の奴にしみじみと言われた。

 俺達の前では全く見せない表情だな、と。

 意味を理解して顔が赤くなる。

 畜生、どこにこの文句をぶつけりゃいいんだ。

 

 

 

END

 

 

 

お題より。ツンデレピカさん。

 

2015.12.22

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 『見せず聞かせず、最後に口を塞いでしまおう』

 

 

 

 大事なことほど、言い辛い。

 皆で彼の誕生日を祝って、ケーキを食べて、用意したプレゼントを渡して。二人が帰った後、片付けをしながら幸せそうな彼の横顔を見つめる。

 まだ、この一言を言えていない。

 

「レオリオ」

 

 耳に熱を感じながら、決意を振り絞って名前を呼ぶ。

 何だ? と振り向く彼の口元に向けて、

 “愛してる”の言葉を含んだキスを、今日は自分から仕掛けた。

 

 

 

 震えた身体は、驚きからか。

 サングラス越しの彼の目に、きっと真っ赤になった自分が映っているに違いないから。己の瞼をぎゅっと閉じてしまっているので、はっきりとはわからない。

 

 

 

 唇を離して、息継ぎをしながら、「いま、おまえ……」と言いかけた彼の耳へ両手を伸ばし、塞ぐ。

 今度は声帯からきちんと言の葉を発しながら、もう一度、彼にキスをした。

 

 

 

END

 

 

 

診断メーカーさんのお題より。レオリオお誕生日おめでとう!!特別な日限定デレピカさんになりました。

 

初出:2016.3.3

 

 

 

 


 

 

 

『面倒な恋ならば粉々にしてしまえ』

 

 

 

「……面倒なんだよ」

 

 

 身長の差のある肩。叩きつけた拳より低い位置に、怯えたクラピカの顔があった。

 

 

「お前って、本当に訳わからねぇ」

 

 

 自慢じゃないが、自分は今まで割と他人の気持ちは読めた方なのだ。だからこれまでの場合は、相手が何を望んでいるか、いつが手を出すタイミングか、引き際や潮時かなども大体わかっていた。恋愛とはそういうものだと思っていた。

 だが、目の前の相手は違う。

 感情表現がややこしくて、面倒で、簡単には理解できなくて。

 その癖やたら捻った捉え方をするから、こちらの思いもストレートには伝わらない。それでも………

 

 

 ……愛しさが勝るから、どうしようもないのだ。

 

 

 

「……悪ィ。ビビらせて」

 

 

 壊してしまうことが怖い。

 傷つけてしまうのが怖い。

 触れるのが、こわい。

 

 

 

 苛立ち紛れの拳を緩め、自分自身に舌打ちをかましながら目を反らす。

 だが下ろした腕に、冷たい、けれど心地よい体温が触れた。クラピカの手だ。

 

 

「……こわいのは、私も同じだ」

 

 

 腕から肩、そして顔へ、指で身体をなぞるように、クラピカが見上げてくる。

 瞳の奥に、願望を感じた。

 

 

 

「だから……………」

 

 

 

 続く言葉は待たずに、腕を再び上げた。抱き締める形に変える。

 

 

 

 こわいのは同じ。だから

 

 

 躊躇いなんて、打ち壊せ。

 

 

 

 

END

 

 

 

お題より。不穏な導入でありつつも、根底はラブラブです。

 

初出:2016.3.6

 

 

 

 

 


 

 

 

『報われないものを知っているんだ』

 

 

 

 それは、多分慟哭。

 

 夜中、音にならない悲鳴を上げるクラピカに気付き、目を覚ます。布団で丸くなったまま頭を抱え、掠れた叫び声を上げるのを見つけて、寄り添い、抱きしめる。

 こんなに辛い想いをしてるのに、もう何度も同じ夢を見ているのに、まだ終わらないのだ。クラピカの苦しみは。

 

 いつになれば、こいつは解放されるのだろう。

 緋の眼を集める間、あんなに憔悴した姿をしていたのに。過去はまだこいつを放さないのか。

 

 

 みんな、みんな、みんな

 

 

 腕の中の身体が呟く。涙交じりの声だ。

 力を込めすぎないように、ただ受け止める。

 

 

 れおりお、れおりお、レオリオ…………!!!

 

 

 はっきりしてくる言葉が、確かに意思を持ち、縋り付いてきた。

 

 大丈夫だ。夢だから。朝になれば全て忘れていてやる。それに泣き顔は暗いから見えない。

 

 そう囁きつつ、涙に濡れた顔を、更に胸に抱き込んだ。

 

 

 

END

 

 

 

お題より。本編後の未来での話。報われないのは、クラピカでもあり、抱き締めているレオリオでもあるつもり。

 

初出:2016.3.6

 

 

 

 

 


 

 

 

『つたえたいメロディがあるよ』

 

 

 センリツ曰く、心音は全てを語るという。言葉や表情より如実にその人を教えてくれるのだと。

 感情の起伏によって、心臓の音色も変わるのよ、と。

 ならば伝えにくいことも、心音であれば伝わるだろうか。普段言えないことも、素直に。

 

 

 何も知らない彼を見つけて、よし、と意気込み、ぼすっと抱き付く。正面から。

 

 

「……………へ?」

 

 

 大きな背中だ。あったかい。

 胸を当てる。若干押し付けている形だが、やむを得まい。

 

 

「あのー……クラピカさん?」

「何だ?」

「何故こんなことを?」

「わからないのか?」

 

 

 質問に質問で返すなよ、とぼやく彼に答えは言わない。だが彼は疑問符を浮かべた顔のまま私を見下ろしている。

 

 ……本当に伝わってないのだろうか、不満を通り越して不安すら覚えてくる。

 少し俯いて、私は話し出す。抱擁を嫌がりはしないことに、ささやかな希望を見出しつつ、一言ずつ。

 

 

「センリツが、言っていた。心音は人の本心を伝えてくれると」

「ああ。オレも前に聞いたことあるぜ」

「……本当に、わからないか?」

 

 

 指に思わず力を込めながら仰ぐと、レオリオはあっけらかんと笑った。

 

 

「お前がオレのことを大好きなのはわかるぞ?」

 

 

 は、と今度は私の口から惚けた呟きが漏れる。

 

 

「だからさ、オレが知りたいのは、お前がどうして欲しいかってこと」

 

 

 だ、大好きって、そこまでは、そこまでは今考えてないのに、何を言い出すんだこの男は!!!

 頭の中が文句や反論でいっぱいになる。

 飽和状態な心で「……いて、くれ」と、声を絞り出した。

 

 

 

END

 

 

 

べた惚れピカさん。最後の言葉は「抱いてくれ」です。大胆!

 

初出:2016.3.7

 

 

 

 

 


 

 

 

『特殊な性癖?』

 

 

 

「レオリオって、もしかしてドM?」

「は?」

 

 喫茶店に集合し、他愛ない会話をした後、キルアが呆れたように聞いた。

 狭い店内故、しっかり聞こえてしまったのだろう、周りの客がひそひそと自分を見ているのがわかる。

 

「……おい、誤解を招くような事をでかい声で言うんじゃねぇ」

 

 大体何でそういう話になったんだよ、オレはクラピカのこと愚痴ってただけじゃねぇか。

 

「だってさ、未だにメアド教えてもらってなくて、電話には出てもらえなくて、留守電にも返事はねーんだろ」

 

 まあな。お前らと違って依然メアドは知らないし、電話はあいつからかかってきたのをほぼ一方的に受けるだけだよ。悪いかチクショウ。

 

 

「それで満足してるなんてさ、何? あんなにクラピカのこと気にしてんのに、焦らしプレイが好みなの?」

 

 

 ……意味分かって言ってんのかこのガキ。

 別に良いんだよ。いくら言ったって聞きやしねーし、今は電話があるだけ御の字だと思わねぇとな。

 するとちゅーっと隣でオレンジジュースを啜っていたゴンが何気なく言った。

 

 

「でもそれってクラピカ限定でしょ」

 

 

 目が点になったオレを横目に、どういう意味だよ?とキルアが訊ねる。

 

 

「だって、メアドは知ろうと思えば、オレたちの携帯を見ることとか出来るのにしないし。レオリオ、値切りとかだったら手段を選ばないのに、そういうのをしないってことは、クラピカのことがよっぽど大事なんだなぁって思って」

「なーる! クラピカ限定ドMか」

 

 

 ………………だからそれは誤解だっつーの!!

 

 

 ニヤニヤした目線に反論を並び立てるが、さらに墓穴を掘る結果となった。顔を見合わせた二人が笑いを堪えているのが見てとれる。

 女好きを豪語していた自分が、まさかこんなに待つ側の立場に甘んじているなんて。それだけクラピカにベタ惚れしているからに他ならない。

 その事に、改めて気づかされてしまった。

 

 

 後日、キルアからクラピカに「たまにはオッサンにも優しくしてやったら?」という進言があったらしい。

 私はそんなにお前に冷たいか? と神妙な表情で聞いてきたクラピカに、赤くなる顔を隠しつつ、もういいさ……とレオリオは返すしかないのだった。

 

 

 

END

 

 

 

お題「ドM」より。これを書く為に、改めて言葉の意味を調べて赤面しました……

 

初出:2016.3.8

サイト掲載:2016.5.28

 

 

 

 

 


 

 

 

 『壊すのは簡単』

 

 

 

  少し早く目覚めた朝。ぼさぼさ頭を掻いた後、レオリオは隣で眠っている顔を見つめる。

 あどけない表情。長い睫毛。光に溶けそうな金色の髪。

 まだ暫く起きそうにない様子を眺めたレオリオは、ふいにクラピカの目と鼻の先にまで首を持ってくる。息が触れ合う近さだ。

 顔に吐息がかかる。呼吸している。

 生きている。

 

 

 この距離を詰めるのは、簡単だ。

 

 ただこの関係が気に入っている。それにクラピカがまだ目的を達成していない現在、 こちらの都合で煩わせるわけにはいかない。

 思い悩む事は少ない方が良い。だから、まだ告げる気は無い。自分の中にある望みは。

 

 (我ながら殊勝なこった)

 

 だが良い仲間として、この寝顔を見つめる特権ぐらいは許されるだろう。

 もう少しだけ、このささやかな幸せの時間が続けば良いと思う。

 顔を離して、愛しい人を見つめ続ける。満足気に微笑むが、そのうちにじわじわと欲望が湧いてきてしまう。

 

 

 ……掠めるだけだったら良いかな。ちょこっとだけ……

 

 

 再び顔を近付ける。

 しかし触れるまであと数センチの所で、唐突にぱちりとクラピカの目が開いた。

 二人して数十秒固まる。いつも寝起きにある寝ぼけ眼はどこへやら、クラピカは自身へのしかかりそうな体勢をしているレオリオをじっと見上げた。

 

 

「…………何を、しようとしていた?」

「いや、その……」

 

 

 

 

 

 

 

「あれー、どうしたのレオリオ? 顔ボコボコだね」

 

 

 

 

END

 

 

 

お題より。哀れな旦那……てか4人は同居してるのだろうか。

 

初出:2016.3.9

サイト掲載:2016.5.28

 

 

 

 

 


 

 

 

『3月9日』

 

 

  

「サンキューの日?」

「うん。3月9日は3と9で、サンキューの日なんだって」

「何だ、ダジャレかよ。レオリオじゃあるまいし……」

「キルア、いつもありがと!」

「え? な、何だよ急に」

「いや、一緒にいるのが当たり前だと、改まって言うことってあまり無いじゃない? だからありがとう! サンキュー、キルア!!」

「……………」

 

 屈託ない言葉と表情に、キルアは耳の端を赤らめてそっぽを向いた。

 

「ふ、ふん。今さら礼なんて、恥ずいヤツ」

「えへへ」

「……オレの方こそ……サンキューな、ゴン」

「え、何?」

「だから…………ありがとう、ゴン」

「何? 聞こえないよ」

「だーかーら……!」

「もっと大きな声で言ってよ、キルア」

「おま……っ!」

 

 それ、絶対聞こえてんだろ!

 真正面で「ん?」と首を傾げ、さも当然のように待つゴンに向かい、キルアは声を張り上げた。

 

 

「オ、オレと、友達になってくれてありがとな!!!!!」

 

 

 彼方にまで届きそうな叫びに、「どういたしまして」とゴンは微笑んだ。

 

 

「相変わらず、仲良いわねアンタ達〜。どう? あたしにも何か一言ない?」

「え? 何のこと?」

「敬老の日はもっと先だぜ」

「……良い度胸だわさ」

 

 

 

END

 

 

 

G.Iプレイしてる時の会話。

この後、当然ビスケにしごかれましたとさ。

 

初出:2016.3.9

サイト掲載:2016.5.28

 

 

 

 


 

 

 

『変われる幸せ』

 

 

 

 故郷の街を歩いていて、知り合いと出くわした。互いのガキの頃を知っている、所謂昔馴染みというやつだ。

 そいつが携帯で近くに住む知人を呼び寄せ、更に何人か巻き込んで、初めは二人だけだった会も賑やかなものとなった。

 

 男が数人集まって、酒が入れば下世話な話にもなる。

 土産話にハンター試験のエピソードを披露していると、誰か気になるやつはいないのかと聞かれ、心の内の何割かを占めるアイツについて話した。当然素性はぼかしてだが。

 

「しかし聞いてると随分気難しそうな相手じゃねぇか。何が気に入ったんだ? 顔?」

「顔は……まぁ好みだな、うん」

「胸はどうだ?」

「胸……つーか体は、細い」

「え、何だよ、巨乳じゃねーの?」

「まぁ……」

「それで? どこまで進んだんだ?」

「いや、全く」 

 

 進むどころか好意すら伝えちゃいない。意外だとばかりに友人は目を大きくした。

 

「何、まだ手ェ出してねーのお前」

「……悪ィかよ」

「へ〜!! 美女と見れば見境なく声かけてたお前が、変われば変わるもんだな」

「人を色欲の塊みたいに言うんじゃねぇよ!」

「もしかして、真剣(マジ)なのか?」

 

 一人が身を乗り出して問う。ほかの面々も口を噤み、どうなのかと目で聞いてきた。

 

 

「……オレにも上手くわかんねーけどよ。アイツとどうこうなりたいとか、どうしたいとか云うより、無茶な奴だから、怪我とかしねーでちゃんと目的を果たせたらいいなとか、笑ってたらいいなとか、そういうことばっかり考えてんだ」

「……思ってるだけで幸せってか?」

「完全には満足してねぇけどよ。今はとりあえず、これでいいかなって思ってる」

「純愛かよ〜クセェなぁ」

 

 

 自分でも恥ずかしい告白で、更に揶揄の対象となるが、レオリオはあまり気にしなかった。

 今の想い人には振り向いてもらうことの方が少なく、寧ろ振り回されて、やきもきしていることの方が多い。

 でもそんな変わってしまった自分が、嫌いではないのだ。

 

 

 

 

 

 

お題より。レオリオの故郷はイタリアをイメージしてます。

 

初出:2016.3.10

サイト掲載:2016.5.28

 

 

 

 

 


 

 

 

 『結局のところ』

 

 

 

 レオリオとクラピカは、よく喧嘩をする。出逢った頃も、月日の流れた今でもそうだ。

 大体は頭の回転が早いクラピカが言い負かしたり、懐が広い(と本人は主張する)レオリオが白旗を上げることで収まるけど、今回のは随分長期戦のようだ。

 かれこれ半日以上口を利いていない。

 ソファでむっつりした顔で黙り込むクラピカに、自分の分のついでにゴンはコーヒーを淹れてあげた。そして近くに腰掛ける。

 何が原因なのか、最初の頃は聞いていたけど、今はもう聞かない。大抵の場合、端から聞くと「それはノロケでは……」と思うことが多いからだ。

 例えば、朝ごはんにかける調味料の好みとか、紅茶の茶葉を取り外すタイミングとか、やれ、カーテンの閉めが甘いとか、靴は揃えて脱げとか。

 キルアが前に「夫婦喧嘩は犬も食わないとか言うよなー」とぼやいてたことを思い出した。

 

 

「…………ゴン」

「……あ、何?」

 

 

 しまった、思考がトリップしてた。

 

 

「私は、そんなに魅力がないだろうか」

「……え、何の話?」

 

 

 喧嘩のことだよね、と確認すると、小さく頷いた後、クラピカは消えそうな声で続けた。

 

 

「いつもクルタの服を着ているから、たまには普通の服を着てみろと言われて……」

「ああ、この前一緒に買いに行ってたよね」

「それを今日着てみたのだが、外に出るなと」

「え?」

「連れて歩きたくないと、言われた」

 

 

 クラピカは怒っていた様子から一転し、心細げに呟いた。

 

 

「腹が立って、思わず『お前が選んだくせに』と言い返してしまって」

「喧嘩になったんだ?」

「……うむ」

 

 

 寂しげな表情だけど、オレは密かに安心していた。原因はいつもと同じだ。

 年下のオレでもわかるレオリオの感情の揺れ、何でクラピカは気付かないんだろう?

 考えればすぐにわかると思うんだけどなぁ〜。

 

 

「ねぇクラピカ……“どくせんよく”って知ってる?」

「ある特定の対象を、自分のものだけにしたいという欲求だな……それが何か?」

「レオリオが怒った理由は多分それだよ」

「それ……とは?」

 

 

 何で頭が良いのに、こういう事にはとりわけ鈍いんだろう。

 

 

「うーん、とりあえず、さっきクラピカが言ってたこと、レオリオの前で言ってみたら? きっとすごい勢いで否定してくれるから」

「しかし……」

「大丈夫! 人間、素直が一番だよ」

 

 

 そうだな、と少し頬を緩めたクラピカを見ながら、ゴンは隣の部屋でキルアに愚痴っているだろう彼に、少しだけ同情した。

 

 

 

END

 

 

 

お題「喧嘩」より。同居してる四人。結局の所、やっぱり惚気でした。

 

初出:2016.3.11

サイト掲載:2016.5.28

 

 

 

 

 


 

 

 

『君なしで生きていけたらいいのか』

 

 

 

 最初はただ、傍にいられたら良かった。

 そのうち、もっと近くに行きたくなった。近くなればなる程、君の心の裡に寄り添いたくなった。

 いつしか、君の全てが欲しくなった。その事に気付いた時、自分自身に愕然とした。

 これまで知らなかった欲望がどんどん膨らんできている。

 

 

 (これは、依存と言うのかもしれない)

 

 

 このままでは、君を欲望で押し潰してしまう。与えられるものだけで満足できずに、君の大事な何かを奪ってしまう。

 思い悩んだ末に、自分にしては珍しく正直に彼に全て語った。

 どうすれば良いかわからなかったから。不器用な自覚はあるから、せめて彼の望む形にしたいと思った。

 すると、彼は笑った。この上なく嬉しそうに。

 

 

「お前の中で、依存は悪なのか?」

「……わからない。けれど、一方的な気持ちの押し付けは互いのために良く無いだろう」

「なら、両方からなら?」

「え?」

「共依存なら、お前が不安に思う必要はないだろ?」

 

 

 それはつまり、と意味を考えていると「オレだってお前なしじゃ生きていけないってこと」と甘い声で囁かれた。

 

 それだけで、力が抜けそうな体を彼に預け、彼の気持ちに応えるべく顔を近付けた。

 

 

 

END

 

 

 

お題より。思っている以上にレオリオに惚れてたピカさん。

 

初出:2016.3.12

サイト掲載:2016.5.28

 

 

 

 

 


 

 

 

『四月一日のこと』

 

 

 

『悪ィ! 大学の用事で行けなくなった!!』

 

 ホテルに着いた直後に、かかってきた電話。

 仕方ない、用事なのだから気にするな。そう答えて、数言の後彼との通話を終わらせる。

 いつも急な用で遅れたり、結果として約束を反故にするのは自分の方だから、彼にドタキャンをされるのは初めてかもしれない。

 

 部屋はキャンセルしようとしたが、金は払ってしまったから使ってくれと言われた。

 無駄にしたがらない所は実に彼らしい。

 フロントで受け取ったカードキーを通し、予約されていた部屋のドアを開ける。

 室内を横切り、大きなベッドに腰を下ろした。

 我慢していた溜め息を一つ。

 

 

 ……好きに使えと言われても。

 

 

「こんな広い部屋、私一人でどうしろと言うんだ。あいつは」

 

 メアドを未だに教えなかったり、それでいて度々かかってくる電話にも出なかったりと、普段彼の態度に甘えているのは自分の方なのに。

 いざその立場になると不貞腐れたような気持ちを覚えていて、狭量な自分が情けなくなる。

 

 

 私は、毎回こんなに彼に寂しい思いを?

 

 

 室内にぽつんと存在している自分の感覚が妙にリアルで、知らず指に力を込めた。

 

 

 と、そこで、覚えのある香りがした。後ろから首が腕に包まれる。

 

 

「…………何故、いる?」

「悪ィ。お前を驚かせてやろうと思って、嘘吐いた」

 

 

 エイプリルフールだから、そう続いた言葉に、止まっていた脳が今日の暦を思い出す。

 

 

「タンスの中で隠れて見てたんだけど、お前が予想以上にへこんじまって。悪かった、お前嫌いだったよな。嘘は」

 

 偽証は最も恥ずべき行為、かつて彼の前で綴った言葉。

 だが今感じているのは、怒りより、嬉しさ。

 

 

 

「……許して、くれるか?」

 

 

「……許さない」

 

 

 込めた意味は、ちゃんと伝わったようだ。背中で彼がふっと笑ったのが聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 エイプリルフール記念。それでも多分メアドは教えないクラピカ。

 

初出:2016.3.12

サイト掲載:2016.5.28

 

 

 

 

 


 

 

  

【二月・パドキアの空港にて】

 

 

 

 ——すみません、これ、お願いします!

 あ、その左端の……えーと、オレから見て左端の。そう、それ! それがスイッチ! 

 ほらキルア~、早く並んで!

 オ、オレはいいって。

 ん? 何を照れているんだ?

 ぐずぐずしねーでさっさと来いって!

 別に照れてなんか……わっ!

 よーし、じゃあ撮ってくれ~! ほら、お前ら笑え! せーの、

 いちたすいちは、に~!

 

 

 ——撮れた? ……良かった、どうもありがとう!

 すみません、突然頼んでしまって。ありがとうございました。

 どれどれ? どんな感じだ?

 ……うん、いいんじゃないか?

 レオリオ、急に腕回すなよ。ビックリするじゃんか。

 どっかのお子ちゃまがもじもじしてっから、気を回してやったんだろ?

 オレ絶対変なカオしてるぜ……あー、ほらやっぱし。

 あ! クラピカてめぇ、自分だけ澄ました顔で写りやがって。

 いいの撮れて良かったー。これ、すぐに現像できないかな?

 すぐにっつても一時間はかかるだろうな。焼き増しして今度送ってやるよ。データの方がいいか?

 データか、う~ん……。

 ゴンは確か携帯を持っていないんだったな、パソコンは?

 ……ううん、ない。

 しゃーねぇな。今度買ったら教えろよ。

 てかゴンはまずケータイを買えよ、無いと不便じゃん。

 う~ん、でもよくわかんないし……今まで無くてもやっていけてたし……。

 ハンターの必需品だぜ? それに、今お前宛ての連絡は、全部オレに来るようになってるんだから、ずっとそうしとく訳にもいかねーだろ? ややこしーし。

 う、それはそうだけど……

 ま、この間までホームコードの存在を知らなかった奴に、いきなり色々覚えさせるのも、無理な話かもな。

 そうだな。気長に付き合ってやれ、キルア。

 えー? それって、オレがまるでゴンのお守り役みたいじゃんか。

 え、何それ、お守り? オレ別に赤ちゃんとかじゃないよ!?

 そりゃ見りゃわかるっつーの!

 じゃあ何でお守役なんだよ!

 自分の胸に聞いてみろよ!

 むかっ、なにさー!

 こらこら。お前たち、騒いでは迷惑になるぞ

 やれやれ、どっちも似たようなモンだな。

 

 

 

 

END

 

 

 

スパコミポストカードラリー用ペーパーのssでした。ポストカード→写真という連想からこの場面に。

 

初出:2016.5.3 スパコミ無配ペーパー

サイト掲載:2016.6.4

 

 

 

 

 


 

 

 

『わかってる。』

 

 

 

 反射的に腕を掴んだ。

 

「止めても無駄だ」

(知ってる)

 

「無茶は承知の上」

 (だろうな)

 

「それでも私は行かねばならない」

 (ずっと前から知ってたさ)

 

 

 跡が残るくらい、込めていた力を緩める。

 離れていく間際聞こえた声と、最後にお前が投げた眼差しに、引き戻したい衝動が起きたけれど、今はただ見送るだけ。

 

 

 

 

END

 

 

 

お題より。何かに向かうクラピカを引き止めるレオリオ。

 

初出:2015.9.24

サイト掲載:2016.6.9

 

 

 

 

 


 

 

 

『囁かれた名前』

 

 

 

 それは自分のものではない、相手の心の深い場所に住む人の名。

 ……嫉妬しなかったと言ったら嘘になる。

 でも声に滲む切なさに気付いてしまったから、

 夢の中でしか会えない人だから、今だけは許してやろう。

 ……目覚めたらその涙は拭ってやるから、その時は今度こそ呼んで欲しい。

 

 大好きな声で、自分の名を。

 

 

 

END

 

 

 

お題より(その1)。レオ・クラ、どちらでも当てはまる話です。

 

初出:2015.9.25

サイト掲載:2016.6.9

 

 

 

 

 


 

 

 

『囁かれた名前②』

 

 

 

 背中から腕を回される。耳元に息が触れる。

 それだけでも揺れてしまいそうな心を奮い立たせ、離れようとする時に限って、優しく囁かれる言の葉。

 途端にそっと、粟立つ気持ち。 

 ……その声に弱いのだ。

 流されまいと思っても、結局君のペースに呼吸が奪われて、儘ならなくなって……

 ……今夜もまた、帰れそうにない。

 

 

 

END

 

 

 

ムーディー版。名前を呼ばれて腰砕けになってたらいいなと思って。魔が差したものです。

 

初出:2015.9.25

サイト掲載:2016.6.9