ふたりへのお題ったーで「レオクラ」

 

 

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  (だいすき。)【L】 / 【C】 / 君のバイバイなんて信じない /  誰か過去形にしてください /  まっすぐすぎて、わらっちゃうね /

 「ほらみろ、だから言ったじゃないか」 / 「かわいい。」 / いわゆる天使ってやつ / にじんでいくお月さま / 「あいして、」 /

  『それって、友情?』 / 変換はお手の物です / これが最後。 / ちゃんと言うから、好きって言うから。 / (このままじゃ嫌われてしまうのに) /

  「えいえんに、すき。」 / ねむるあいだにいなくなってね / ふかふかのひつじにつつまれる / 「あなたなんていらない」 / なあ、好きだ! /

  まぶしすぎる未来 / アンバランス、ベストポジション /  なくしたものを数えてばかり / 抑えきれる程度の想いだったらよかった / きっと、そばに。 /

   期待、したくない  / たとえばいま消えてしまっても、きみは泣いてくれるだろうか / きみに溶けてしまいたい / 背伸びをしたら届くの? / きみだけ限定、特別。 /

  背中合わせの恋 / 朝露の頬 / (どこ見てるんだよ!こっちだろ、こっち!) / それこそ見逃してきた一瞬の泣き顔 / (いっしょに、って言ったら困るかな) /

  条件反射みたい。 / きのうわたしだったあの子 / きらいって言ってくれれば、 / (ようやく会える)【C】 / 【L】 /  笑顔はもっと好きだよ /

  (たすけて、くるしい、きみがほしい)  /  交わらないもの、平行線。 / フラスコをさかさまに /  夜のとばりは落ちて、 / (もしかして、それって天然?) /  「お願いばっかりだね」 /

 

 


 

 

 

 ちゃんと言えたら良いのにと自分でも思う。

 幼い子供のままだったら躊躇なく言えただろうか。

 でもあの時はこんな気持ちをまだ知らなかった。

 溢れるあたたかい思いが伝わるよう願いながら体を寄せて、顔を寄せて。それしかできない。

 けれどそんな思いも実は知ってて、受け止めてくれている君が、本当に、

 

 

(だいすき。)

 

 

 

 


 

 

 

(だいすき。)

 

 

 愛を告げる言葉は世界に溢れているし、時々確かなものとして欲しい時もある。

 たまにはちゃんと言えよ、と言うとお前は困った顔をする。

 わかってるんだ、これは小さな意地悪。腕の中で、安らぎに目を細めてオレに体を預けるその態度が、お前の感情を何よりも雄弁に語っていること。ちゃんと知ってる。

 

 

 

 


 

 

 

 何度目になるだろう。別れ際、お前はオレを切り離す覚悟をしたかのようにいつも神妙な顔をする。

 元気でな、とか、らしくない言葉ばかり紡ぐ。

 そのまま一人になろうとでも考えてるんだろうな。

 …手離させてたまるか。またその電話を取らせてやる。

 しつこいぐらい鳴らしてやるから、覚悟しておけよ?

 

 

『君のバイバイなんて信じない』

 

 

 

 


 

 

 

 本当は早く終わらせたい。皆を取り戻して、故郷に帰してあげたい。

 激しい怒りは時間の経過と共に段々と、熾のように勢いを無くしていく。薄れていく感情を絶やさぬよう、燻るそれがそのまま消えてしまわぬよう努めるのは、正直辛い。

 それに、彼との約束も果たさなければならない。彼との最後の。だから

 

 『誰か過去形にしてください』 

 

 

 

 


 

 

 

 こんな思いもあるのだと知った。

 会えなくても元気でいるならとか、声は聞けなくても向こうは留守電を聞いていてくれたら、それでいいとか。

 そんな穏やかな、相手の幸せを願うだけの想いを抱く日が来るなんて。

 勿論、何かアクションが返ってくるのが一番だけれど、現状で満足している自分が、我ながら。

 

 

『まっすぐすぎて、わらっちゃうね』

 

 

 

 


 

 

 

 これ以上は駄目だ。このまま彼らと、彼といては絆されてしまう。

 永遠の別れが怖くなる。何より一人であることを忘れてしまう。

 そう何度も言い聞かせたのに、指は彼の電話番号を消すことを拒む。

 電話を取りはしないのに、着信拒否はせずに、ずるずると、いつかの再会をどこかで願う、弱い自分がいる。

 

 

「ほらみろ、だから言ったじゃないか」

 

 

 

 


 

 

 

 かわいいというのは愛玩動物などに対する感情であって、自分よりずっとガタイの良い、大の大人の、それも男に感じることがあるとは思ってもみなかった。

 しかしつれない態度をとる私に時折「なんでぇ」と言いながら拗ねる彼を見て、そんな思いを覚える自分がいる。

 …これを惚れた弱みと言うのだろうか。

 

 

「かわいい。」

 

 

 

 


 

 

 

 可愛くない。顔を合わせる度にまずその言葉が出てくる。

 こっちがいくら連絡しても電話には出ないし、会ったら会ったらで文句ばかり言ってくる。

 けどめげずに話題を続けて、大学や将来の話をしている時、相槌の合間にふと漏らす微笑。

 目元が優しい形に細められる瞬間を見ると思うのだ。愛しいな、と。

 

 

『いわゆる天使ってやつ』

 

 

 

 


 

 

 

 思い出話をしていた時だったか。

 何が切欠かはわからないが、気付けば彼に抱き締められていた。

 言葉はなかったけれど、苦しい位の抱擁は心地良く、体の全てを彼に預ける。

 月はいつかと同じ形をしていたけれど、あの頃とは違う想いが今は胸を満たしていた。

 瞼が知らず熱くなる。もう一人じゃないのだと。

 

 

『にじんでいくお月さま』

 

 

 

 


 

 

 

 望むことを、願うのも口にするのもおこがましくて、考えることすら封じてきた。

 幸福は罪なのだと、感じることすら「あの日」から私には過ぎたものなのだと。

 でも君の体温に触れていると、赦されているような気がする。

 言えよ、はっきり。オレの所為にしていいから。

 そう優しく促される。

 どうか、私を

 

 

「あいして、」

 

 

 

 


 

 

 

 日付を見て、別れてからの時間の長さを思う。

 今何をしているだろうか。ちゃんと飯食ってるだろうか。

 泣いてなど、いないだろうか。

 出来るなら、少しでも笑えているといいが。

 日常を送る合間に、思いを巡らす。

 …あいつのことを考えると、祈りにも似た感情ばかり抱いてしまうのは、何故だろう。

 

 

『それって、友情?』

 

 

 

 


 

 

 

 付き合いが長くなるうち、こいつの態度は裏返しであることがわかってくる。

 暴言は気を許してる証拠。大丈夫という発言は落ち込んでる時だから、素直じゃないこいつを甘やかすことに徹する。

 そしてこの抱擁に対する抵抗も、実は「抱いて」というこいつなりのサイン…いてっ、すいません調子に乗りました

 

『変換はお手の物です』

 

 

 

 


 

 

 

『これが最後。』 

 

 気持ちが抑えられない時、免罪符のように繰り返しては彼に電話をかけた。

 それは弱さだとわかっていたが、今だけだから、最後だからと誰かに言い訳をして、関係を更新していた。

 今日が本当に最後だ。電話口で君がそうだな、と相槌を打つ。

「もう連絡する必要ないもんな。オレ達、一緒に暮らすんだから」

 

 

 

 


 

 

 

 彼の夢を見た。旅立つ時に見送ってくれた、最後になった姿。

 夢から覚め、瞼を擦ると隣で眠る君がいる。

 恥ずかしいから、今度こそ言うからと、ずっと後回しにしていたが、いつ伝えられなくなるのか未来はわからないのだ。

 彼の幻に後押しされて、こっそり頰に唇を寄せる。

 だから今日、君が目覚めたら。

 

 

『ちゃんと言うから、好きって言うから。』

 

 

 

 


 

 

 

 鳴り続ける電話を他所に仕事をする。

 いいの?と同僚が訊ねる。こんなことを続けていては、いずれ愛想を尽かされるかもしれない。

 しかし私がこの世界に身を染めていく程に、手を伸ばしてくれる彼も引き摺りこんでしまいそうで、だからあえて距離を置く。

 怖いのは嫌われることより、彼を失うことだから。

 

 

(このままじゃ嫌われてしまうのに)

 

 

 

 


 

 

 

 彼のアドレスは知らないし教えてもいない。

 文章は未送信のまま、新しいものに埋もれていくだろう。

 けれどこの想いが変わることはない。

 万が一目に触れた時、君への呪縛にならないよう願いながら、けれど覚えていて欲しいなんて、都合の良い考えも抱きながら、送信する気のないメールを打ち込む。

 

 

「えいえんに、すき。」

 

 

 

 


 

 

 

 ガチャン。微かなドアの開閉と、遠くで聞こえる足音。

 …行ったのか。オレが起きるまでは待てと、夕べ何度も言ったのに。

 でもこの方が良かったのかもしれない。顔を見たら愛しさが溢れ出して、きっと帰すことなどできないだろうから。

 ……なんてな!!

 待ってろ、先に空港に着いて、お前を驚かしちゃる!

 

 

『ねむるあいだにいなくなってね』

 

 

 

 


 

 

 

 眠れないと言ったら、少し考えた後ぎゅうっと抱かれた。

 …何の真似だ?

 人の体温にはリラックス効果があるんだってよ。どうだ?気持ち良い?

 …どちらかというと、硬い。

 てめぇ、オレの優しさを。

 でもこのままでいろ。

 偉そうだなおい。

 そう言いながらも離そうとはしない彼の背中に腕を回し、目を閉じる。

 

 

『ふかふかのひつじにつつまれる』

 

 

 

 


 

 

 

 修羅の道を進むには人であることを捨てなければならない。

 仇と同じ所まで堕ちて、誇りを失くす覚悟までしたのに 、お前は何故そう私を繋ぎ止めようとする!

 鍛えた筈の心が脆くなる。

 夜が怖くなったのも独りになるのが怖くなったのも全部、お前の所為だ。

 だから、応えたくなるその前に、電話をやめて

 

 

「あなたなんていらない」 

 

 

 

 


 

 

 

『なあ、好きだ!』

 

 

 何でそんなに何度も言うんだ?

 息をするようにさらりとオレが告げる言葉に、毎回頰を赤らめながら尋ねるお前。

 その顔を見たいってのもあるけど、この言葉と想いは何度言ったって伝え足りないし、何度だって伝えたいし、何度だって思うんだ。

 呼吸をする度に、お前への愛を実感するのだ。

 

 

 

 


 

 

 

 昔親友と夢を見た。その時未来は輝かしく、限りなく広がっているように思えた。

 …潰えた夢は憧れになった。

 それから幾年月、かつて淡い夢を語った君はそれを叶え、今も新しく光る夢を追わんとしている。私の手を繋いで。

 幸せになろうと隣で微笑む君の顔が眩しくて、目を細めた。

 ……もう、幸せだよ。

 

 

『まぶしすぎる未来』

 

 

 

 


 

 

 

 絶対に気が合わないと思ったし、口喧嘩はしょっちゅう。価値観も大分違う。

 けれど顔を上げるタイミングや呼吸が、不思議と絶妙に合う。

 周りからは一括りに見られてるし、一緒でない時は「あれ、◯◯は?」と聞かれる。

 そして姿を探し尋ねて、一人でいる背中の隣に立つ事が、当たり前になりつつある。

 

 

『アンバランス、ベストポジション』

 

 

 

 


 

 

 

 かつて失ったものは、世界の全てだった。

 家族、親友、故郷。だから奪われた怒りを原動力として、己をも投げ打ち、取り戻すことのみに従事する。それだけしかできなかった。

 でも、今は君がいる。私に生きていていて欲しいと言ってくれる君が。

 …悲しみだけを数えて生きる、そんな日々に、さようなら。

 

 

 『なくしたものを数えてばかり』

 

 

 

 


 

 

 

 ただ柔らかい「好き」という気持ちだけだったら、こんなに苦しむ必要もなかったのに。

 君の存在が、心を占める領域があまりに大きすぎて。会えない日々は痛みに変わり、胸を締め付けていく。

 いっそ全てを捨ててしまいたくなるがそれすらも出来ずに、自分からは鳴らせない携帯を、額に押し当てる。

 

 

『抑えきれる程度の想いだったらよかった』

 

 

 

 


 

 

 

 組を抜けた時、あの人の心音は硬質な響きだった。

 出逢った頃以上の覚悟、闇に身を浸した人間のメロディ。

 あれから何年か経ち、今日は久々の再会。

 あの時とは違う笑顔の質にも驚いたけれど、それ以上に心音の音色が変わっていた。

 心が通い合う人がいるのだろう。そして多分それは、私の知っている人だ。

 

 

「きっと、そばに。」

 

 

 

 


 

 

 

 今日も鳴るのだろうか。

 マナーモードの携帯を見る。着信履歴は同じ名前ばかり。

 どうせ自分から出ることはないのだから、もう止めて欲しい。

 習慣の様になってしまったら、明日もまたかかってくるだろうかと、期待してしまうから。

 彼からの電話を待っている自分がいることを、認めたくないから。

 

 

『期待、したくない』

 

 

 

 


 

 

 

 息が苦しい。容赦なく口の中に流れ込む水。

 走馬灯が浮かびそうになって、夕焼けの中の小さな背中を思い出した。

 燃える船。波間に消えたペンダント。

 踵を返そうとしたオレを、呼び止めた声。

 …オレがここで死んだら、あいつはどうなる?また一人になっちまうじゃねぇか。ぜってぇ死ねねぇ。

 

 

『たとえばいま消えてしまっても、きみは泣いてくれるだろうか』

 

 

 

 


 

 

 

 君の体温に包まれたまま、溶けてしまえたらいいのに。

 全てを捨てて一つになれば、誤解もすれ違いもなく同じものを見ていられるのに。

 そう思う時がある。でもそんな事はあり得ないし、互いの違いを乗り越えてこそ、分かり合えたことが喜びになるのだと知った。

 …今は束の間の温もりに浸るので十分だ。

 

 

『きみに溶けてしまいたい』

 

 

 

 


 

 

 

 オレとキルアとは違って、あの二人は会話がやたら多い訳でもないんだけど、仲が良い。

 似た者同士だよね、と自分でも言ったことはある。

 でもそれ以上に通じ合っている何か。言葉がなくても互いのことがわかってる空気が、二人にはある。

 これが年の差なのかな?それが時々、二人が大人に見える瞬間。

 

 

『背伸びをしたら届くの?』

 

 

 

 


 

 

 

 幸福な営みを何度も繰り返してふと見たら、あいつの瞳がこれまで見たことないほど真っ赤に染まっていた。

 思わず「すげぇ…」と呟いてから、無神経だったかと思い顔を伺う。

 

「…そんなに赤いか?」

 

 きょとんとした後

 

「お前にしか見せたことないから、わからない」

 

 得意そうに笑った。

 何だ、その殺し文句。

 

 

『きみだけ限定、特別。』

 

 

 

 


 

 

 

 私達は違うものを見ている。夢も未来も。

 出逢った時からそうだった。同じ道を歩いているのは一瞬だけ。偶然が引き寄せたもの。

 でも、いいのだ。

 愛しさは変わらない。切ない時もある。

 しかしいつかまた、巡り合いが引き合わせてくれると信じている。

 だから、今は笑顔で別れて、互いの進むべき道を。

 

 

『背中合わせの恋』

 

 

 

 


 

 

 

 「遅いぞ」起き抜けに聞こえた声。

 顔を洗っていたらしく、落ちる水滴をタオルで拭いながらやってくる。

 こいつの声で目覚めるのは三日目か。

 だが悪くない。日常になりつつある風景を眺める。

 …遠いいつかの日も、こんな風に目覚めるのだろうか。とそこまで考えて、何を想像してるんだオレはと自嘲した。

 

 

『朝露の頬』

 

 

 

 


 

 

 

 奴は憎まれ口を叩く割に結構な照れ屋だ。

 正面から褒め言葉を聞くとやや狼狽えるし、好きだぜとか愛してるとか告げると、馬鹿者、などと言いながら目を逸らす。

 その時そっぽを向く目元が赤くなってるのに堪らなくそそられる。

 こう嗜虐心ってーの?もっと色々言って、顔を真っ赤にさせたくなってくるな。

 

 

(どこ見てるんだよ!こっちだろ、こっち!)

 

 

 

 


 

 

 

 強いと思う。背負っているものに対して、傷付いた素振りとか見せないから。

 その認識が変わったのは再会後。

 二人が連れ去られた時や、ゴンの言葉に揺れた視線を見て、本当のあいつはずっと独りで泣いていたのだと知った。

 …お前が望むなら見ない振りぐらいしてやるから、いいんだぜ、寄りかかってもさ。

 

 

『それこそ見逃してきた一瞬の泣き顔』

 

 

 

 


 

 

 

 一人でいること、二人でいること。どちらが今の自分達には当たり前なのだろう。

 同じ場所にいて、同じ目標を目指して。

 けれどその先の道は違うと知っているからか、互いに踏み込む領域は弁えている。言い換えれば、付かず離れずの関係だ。

 けれど時々、言えないがこの距離を変えたくなる時がある。

 

 

(いっしょに、って言ったら困るかな)

 

 

 

 


 

 

 お前やたらにオレに噛み付くよな。

 例えばオレとゴンが同じ事言ってても、ゴンとは普通に話すのに、オレには余計な一言言ったりするんだよな。

 あとオレがエロ本読んでたり酒飲んでるとすぐ文句言うし。そんなにオレのこと好きなのか?

 …冗談だって、んな怖い顔で見るなよ。

 あだっ、だから叩くなってば!

 

 

『条件反射みたい。』

 

 

 

 


 

 

 

 夢を見た。ただ黙々と歩いている、今より幼い私。

 クルタの文様を一人背負い、歩いている私。

 …やはり笑えてなどいないな。

 でも大丈夫だよ。その道を歩いていけば、かけがえのない大事な人に出逢える。

 そしてお前がかつて見ていた夢は、その人が、今私の隣にいる彼が叶えてくれる。

 だから、がんばれ。

 

 

『きのうわたしだったあの子』

 

 

 

 


 

 

 

 優しすぎるのだ。しつこい位連絡してくる癖に何かを求めてくる訳じゃないから。

 いっそ嫌いだと口に出来たら、この関係にも、気持ちにも諦めがつくのに。

 けれど偽証はできない。己の心に、嘘はつけない。

 結局労わりに触れて、幸せに浸るのを自分に許すこともできず、彼を遠ざけることばかりしてしまう。

 

 

『きらいって言ってくれれば、』

 

 

 

 


 

 

 

 あと数分。時計を確認したい気持ちを抑え、前髪を指で整えて息をゆっくりと吸う。

 感情を隠すことには慣れたから、こんなにも胸が高鳴っていることを彼は知らないに違いない。

 絶対言ってやるものかとほくそ笑む。からかわれる材料を与えるのと同じだ。

 最初にかける言葉は決まっている。「遅いぞ」と。

 

 

(ようやく会える)

 

 

 

 


 

 

 

 待ち合わせに遅れるのはあまり良くない。

 けどオレを待っている時のあいつの表情が無茶苦茶可愛いことに気付いてしまってから、時々少しだけ遅く行くことにしている。

 離れた場所から気取られぬ様に窺って、普段は見せてくれないいじらしい仕草を堪能した後、怒り顏を作るあいつに「悪ぃ!」と返すのだ。

 

 

(ようやく会える)

 

 

 

 


 

 

 

 …正直に言おう。彼はなかなか男前だ。

 トレードマークのサングラスを外すと、ギャップの所為か更にそれが際立つから、見蕩れる女性もいることだろう。

 彼がおちゃらけた雰囲気を消して、目標に真剣に向き合う横顔が好きだ。

 瞳の光が好きだ。何より、彼の少年のような笑顔が好きだ。

 …本人には内緒だが。

 

 

『笑顔はもっと好きだよ』

 

 

 

 


 

 

 

 ずっと独りだったから、弱音を吐くことが上手くできないんだろう。

 口にするのは心とはいつも反対の事だ。

 ほぼ無理やり抱き寄せて、聞こえない声に耳を傾け。やがて瞼の隙間から滲む涙が早く渇くよう、温もりを分け与える。

 すると消えそうな声音で漏れる言葉。その本音を逃さずに、更に強く抱き締める。

 

 

(たすけて、くるしい、きみがほしい)

 

 

 

 


 

 

 

 会いたい、会いたくない。

 話したい、話したくない。

 声が聞きたい、聞きたくない。

 触れたい、触れられたくない。

 抱き締めたい、抱き締められたくない。

 離れたい、離したくない。

 帰りたい、帰したくない。

 傍にいたい、いられない。

 キスしたい、キスできない。

 笑いたい、笑えない。

 愛したい、愛してる。

 

 

『交わらないもの、平行線。』

 

 

 

 


 

 

 

 口に出した言葉は戻せない。

 最初は小さな呟きだったが、弾みがついたのかどんどん溢れていって。

 自分でも何を言っているのかわからなくなり、顔を上げるとニヤニヤと笑う君。

 忘れろ!今聞いたこと全部忘れろと胸板を叩くが、笑いながら身体ごと抱きしめられる。

 …好きな理由なんて話さなきゃ良かった。

 

 

『フラスコをさかさまに』

 

 

 

 


 

 

 

 夢の中で叫んだ気がした。

 現実ではないと判りつつも、苦しいのは変わらなくて呻く。

 けれど不意にじんわりとした温かさに包まれて、苦しさが遠ざかっていく。

 重い瞼を開ける。

 暗くて顔が見えない。だれ?

 「いいから、寝てろ」

 囁く声に導かれ、カーテン越しに届く月明かりを視界に入れつつ、眼を閉じた。

 

 

『夜のとばりは落ちて、』

 

 

 

 


 

 

 

 こいつに限ってそれは無い。頭の片隅で冷静な自分が言う。

 でも風呂上がりの火照った顔で、まだ水気の残った髪越しに上目遣いで見上げてくるその顔。

 切なげな目元といい、誘っているように見えるんだが……い、いいんでしょうか。

 ドキドキしつつ手を伸ばしたオレに一言

「…髪乾かしてくれないか、眠い」

 

 

(もしかして、それって天然?)

 

 

 

 


 

 

 

 優しくして欲しいとか、抱きしめて欲しいとか、君といると欲ばかりが湧いてきてしまう。

 我儘になった気がするなと呟くと

「だからオレがいるんだよ。お前を甘やかすのがオレの仕事」との返答。

 …贅沢なものだ。

「さぁお姫様、願い事は何だ?」

「…私と、幸せになって」

「…残念。もう叶っちまってるな」

 

 

「お願いばっかりだね」

 

 

 

 

END