Ⅰ、

 

 

 

 ガタンガタン。大陸を横断する列車の中では、規則的な振動が常に床を揺らしている。

 だがその揺れもほとんど響かぬほど、一行は豪華な作りの部屋にいた。

 振動を吸収するのは、シックな色合いの絨毯。足音すらも飲みこむそれは、ご丁寧なことに廊下と客室では色合いがやや違う。

 三人がライセンスで予約した客室は、廊下からは扉で遮断されており、まるでホテルの個室のように、完全に閉ざされたプライベートな空間を作り上げていた。

 

「さすが特等。やっぱ三等とは違うな」

 

 トランクをオーバーテーブルのそばに置いたレオリオは、早速ソファで体を伸ばす。

 体の大きいレオリオの体格でも十分にくつろげるほど、ゆとりのある作りだ。そこらの品とは、クッションの材質すらも違う。

 ふかふかしすぎて、体の収まりどころが見つからずにずり落ちてしまうゴンとクラピカを、レオリオは笑った。

 荷物を置いて、落ち着いた後。怪我している腕はなんのその、ゴンは車内の探検に繰り出すと言い出した。

 

「ねーレオリオ、本当に行かないの?」

 

 飛行船の時みたいに一緒に行こうよ、とゴンは持ちかける。

 すでにソファから降りている彼(という表現が正しいだろう。体格からして)、に対し、ソファに体を預けたまま、レオリオはひらひらと手を振る。

 

「ああ、パスだパス。オレぐらいになると、体に堪えるしなぁ。おまえ一人で行ってこい」

「ジジくさいぞ、レオリオ」

「うるせー」

 

 同じく動こうとしないクラピカに、レオリオが悪態をつく。

 

「クラピカは?」

「私も遠慮しておくよ」

「なんだ、おめーも同じじゃねぇか。おい、老人」

「私は君より肉体年齢は若いぞ。……ゴン、私たちのことは気にせず、行ってくるといい」

 

 慣れた様子でレオリオをあしらい、振り向いたクラピカにゴンは「わかった」と頷いた。

 心なしか弾むような足取りで扉に向かう背に、クラピカはもう一度声をかける。

 

「危ないから、あまり走らないようにな」

「うん!」

 

 元気の良い返事をした後、ゴンはスライド式の扉の向こうに消えた。

 最初は律儀に言いつけを守りつつも、そのうちきっと車内を駆け出しているのだろう。

 そんな彼の様子がすぐに想像できて、クラピカは思わずくすりと笑った。

 ふと。彼の隣に、並んでいたはずの背中を思い出す。

 

「……そういえば、ああして飛行船や軍艦島でもキルアと探検していたな。ゴンは」

「ああ。やっぱ同じ年頃のダチが一番いいんだろうぜ」

 

 二人を思い、自然と神妙な顔になり、クラピカは沈黙する。

 レオリオも飲みかけのエスプレッソを静かにすする。

 

「会えるといいな」

「ああ」

 

 おたがい主語は出さなかったが、気持ちは同じだった。

 

 

→ 夜行列車の光の先 Ⅱ